少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

617 最終空港バス

機は予定通り、21時すぎに、無事成田に到着した。韓国からの帰国は初めてだったが、いつもと様子が違う。税関でやたらと時間がかかる。前を見ると、複数の乗客がトランクの荷物を開けられて調べられている。よく見ると韓国人らしい。色の違うパスポートを係官が見ている。
中国便ではあまり見られない光景だ。やはりニセブランド品、持ち込み不可の食料品などが多いせいだろう。
最近、経験したことのない、長い税関チェックを受け、僕は外に出た。最終の新宿行き空港バスの時間をチェック、22:45分。約1時間ある。その間に僕は荷づくりして、新安城のレトロカフェ「ビリケン」に中国で作ったチラシと販売用の商品を宅配便で送らなければならない。僕の荷物は着替えと書類以外はすべて「ビリケン」用だ。今回はマイケル・ジャクソンの陶器製マグカップなども仕入れた。割れないように梱包せねば・・・。そして送る。成田から安城まで、送料は2100円もかかる。ところがアメリカンエキスプレスのカードを持つと、これが重量30㌔まで無料となる。そのためにカードに加入した。年間費は1万円かかるが、年間5回以上使えば、元がとれる。
バスの出発時刻まであと15分。「やってる売店はありませんか?」と運行会社のお兄さんに尋ねると「5階のローソンしかありませんが、バスの時間が迫っています。もし乗り遅れますと最終ですので・・・」と不安気に言う。僕は時計とにらめっこし「握り飯と茶を所望するだけですから」と急ぎ足でトランクゲージを押し、エレベータへと向かう。往復に5分×2、買い物に4分で1分おつりのくる計算だ。行こかどうしようか、迷う時間は無駄だ。腹が減って新宿までは持ちそうにない。
僕は辿り着いたローソンで、塩ムスビ、赤飯ムスビ、わかめムスビとお〜いお茶濃い味と、なぜかアイスクリーム(ピノ・ストロベリー)を買い、ダッシュで戻った。
すると、先ほどのお兄さんが「すみません、お荷物が多かったし、僕の教え方がわかりづらかったかな〜と思いまして」と心配してわざわざ4階まで迎えに来てくれた。あ〜、ここは日本なんだな、と海外ではあり得ないサービスに心打たれる。
「ところで、地震大変だったでしょう、僕は中国にいたんで、ぜんぜん様子がわからなくて・・・」と声をかけた。
「はい、大変でした。実は、自分、実家が銚子なんですけど、自分の家の隣の人は家ごと流されてしまいました」
「えっ、家ごとですか?それでお兄さんの家は無事だったの?」
「はい、地震であっちこっちがたがたですけど家は残りました」
「ご身内は?」
「おかげさまで全員無事でした」
「何で隣の家は流されて、あなたの家は無事だったの?」
津波って川に向かって流れて行くんですよ。それで隣の家の方が川に近かったんですよね」
「じゃあ、もしもう少し大きいのがきたら、あなたの家も・・・ということですか?」
「はい、たぶん、そうなっていたと思います」
「まさか、こなると思って、少しでも川から離れた場所をと、祖先の誰かが選んだわけじゃないでしょうけど、ほんのわずかな距離の差が明暗を分けたということなんだね。かならずどこかに、流された人とギリギリ、難を免れた人との境界線があるはずだから、あなたの家はまさにそのボーダーだったんだ」
「はい、そうなんです」
「流された方は本当に気の毒だったけど、なんというか、不幸中の幸いとも言えないけど、それでも本当にご家族が無事で何よりでしたね」
「ああ、ありがとうございます。ほんと、それだけでも、ありがたいことなんです」
お兄さんは僕の荷物をトランクルームに詰め込むと、深々とおじぎをした。彼だってれっきとした被災者なのに、こんなに遅くまで働いている。やはり日本人は凄い。改めてそう思う。(つづく)