少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

681 原田芳雄さん

7/22金曜日朝、軍人病院へ向かうため自宅から最寄りのバス停で、ふと町内会の掲示板を見上げると、町内在住の原田芳雄さんの訃報が貼り出されていた。それはまるで一般の人と同じ扱いなので、気づく人も少なかっただろう。
原田さんの住む渋谷区大山町と僕の住む世田谷区北沢は道一本隔てて隣接している。僕が14年前に家を探したころ、大山町の坪単価は最低価格で一坪400万円、北沢は大山町の半値の一坪200万円だった。東京とは恐ろしい、道一本でこんな感じだ。
原田さんが大山町に住んでいることは知っていたが、どこかまでは知らなかった。住所が出ていたので、軍人病院からの帰り道、興味本位で探してみた。というのも、テレビのニュースで映った原田さんの御自宅付近の風景に見覚えがあったし、過去の映像で室内を見ると板張りの古風な造りで階段箪笥などがあり、僕の大好きな雰囲気だったからだ。
原田さんの御自宅は僕が思っていたより、ずっと近い距離だった。ゆっくり歩いても5分とかからない。しかも昨年の今ごろは、バイトで住友不動産のチラシを何度もポスティングさせていただいていた家だった。
玄関の外には、ゆうべ、多勢の弔問客が飲み干したのだろう、大量のビールの空き缶が入った大きなビニル袋が数個と、2つのバケツに入った大量のタバコの吸い殻が出されていた。吸い殻コレクターのやくみつる氏なら喜んで持ち帰るんだろうな。
玄関の外には、おそらく柄本明さんのものと思われる自転車がそのまま置かれていた。柄本さんもご近所で、よく自転車姿をお見かけする。ニュースでも、普段着に自転車で原田邸を訪れていた。きっとそのままずっと飲み明かしたのでしょう。
原田さんは100本以上の映画に出演しているとのことですが「それでも映画について、俺はまだ何もわかっちゃいない」とテレビのインタビューで語っていた。そんな言葉に映画の奥深さをさらに感じる。
原田さんがテレビのニュースであの痩せこけた車椅子姿を見せるより少しだけ早く、僕はネットニュースを見て目を疑った、この人誰?
癌ということだが、原田さんのことだから必ずカムバックしてくれると信じていたのは少数派だけではあるまい。だが、原田さんが亡くなる前日、僕の書斎から一冊の映画のパンフレットが、どういうわけだかパサッと落ちてきた。
「アラカルト・カンパニー」1987年公開作品だ。尾美としのり今井美樹主演。パリで日本人が始めた「便利屋」の奇奇怪怪な物語だ。恋人を殺して食べてしまった佐川君事件もエキスとして使われ、コミカルの中にヘビーなシリアスがある秀逸な作品だった。だからビデオもパンフも買ってしまった。主役は上の二人で早乙女吾郎役の原田芳雄さんはタイトル的には助演だが、観た人なら誰でも原田さんが主役だとわかるはずだ。本当に不思議で面白い映画だった。日本航空がスポンサーで画中、旅行者役の尾美がJALの旅行バッグをぶら下げて歩くのだが、そんなことがステータスな時代だった。何回も観たのでかなり細部まで覚えている。
映画のパンフが落ちて来たのは「虫の知らせ」というやつだが、こういう現象は僕の周りでは日常的にある。僕が被災地に行けない理由もそんなところにある。
原田邸の裏路地の壁つたいに咲いていた名もない小さな花が、あまりにも綺麗だったので、僕は携帯で写真を撮った。いつも行く個人経営のスーパーでトマトジュースとガーナチョコを買った。レジのおやじさんに「原田さんの家すぐそこだったんですね」と僕が言うと「そうなんだよ、よく買いに来てくれたんだよな。まあ、奥さんは今でも来るけどね」。僕は一度もお会いしたことがない。
松田優作さんが歌う「ヨコハマ・ホンキー・トンキー・ブルース」。僕の大好きな歌だが、実は原田さんの持ち歌だったんですね。それは知らなかった。なんとか入手して原田さんの歌で聞いてみたい。