少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

956 広州医療事情2

朝一番の治療を終えこいつを書こうかというタイミングで点滴タイム。左手一本持っていかれましたが、相変わらず鮮やかな手つきで一発注入。しかも実習生(見習いナース)。しかも、同室患者の付添いさんと世間話ししながら、ちゃちゃっと。
日本ではこうはいきません。軍人病院でも何度か失敗されました。病院ではお世話になることも多いので、この程度の人体実験(ボランティア)はまったく問題ないのですが、見るにつけ、日本の看護婦さんは緊張しすぎ。まあ、場数が相当違うので仕方ないでしょう。
例えば腎臓移植。日本では20例も行えば「ベテラン」とか「エキスパート」という称号(形容詞)がつきます。私が担当した中国人医師は40代前半で、過去800例以上の腎臓移植の経験がありました。年間で多いときには200例。日に三度の移植手術を行ったこともあるそうです。
私が担当した患者さんの中には、そんな医師の腕を信頼して全身麻酔ではなく、局部麻酔のみで移植手術された方もおりました。現在もその医師とは交流がありますが、もう1000例を軽く突破し、80歳を越えた糖尿病患者の腎移植手術にも成功しました。さらっと書きましたが医療従事者の方が読まれたら驚くべきことです。80歳の患者さんは共産党幹部で、その時は「さすがに緊張した」と言っていましたが、こと外科的手術に関しては症例の数の多さが、医療水準のひとつのバロメータになるので、その伝でいけば、中国の医療は世界トップレベルの水準といっても間違いありません。
ところで、今朝、担当の女医さんから「本日から点滴をもう一本追加、飲み薬も大量に増やし、アンタをクスリ漬けにしてやろうと思うが同意するか?」と問われ「どうしてだ?」と尋ねると「お金を摂るためだ」と言われたので「不同意」と言うと「そうか」と残念そうな顔で去っていきました。中国語はよくわかりませんが、彼女の心はよくわかります。
いまでさえ、かなりのクスリ漬け。
実父が亡くなった歳の火葬場。骨になった時、胃のあたりでメラメラとまだくすぶる青い炎の小さな山。鉄板の錆び色と父の白い骨、そして未だ消えない美しいコバルト色の炎。「あれ、ぜんぶ、お父さんの胃の中のクスリだよ」と参列者の西本さんが教えてくれました。
僕が実家で大量のクスリを飲むのを見る母親は「頼むから飲まずに捨ててくれ。お父さんみたいになっちゃうから・・・」と悲痛に言う。
三宿の軍人病院でのクスリ管理は厳重です。患者が自身で薬を仕分け、それを担当ナースがチェックする。そして確認のため、飲み終えた空き袋を回収し、複数のナースでチェックしパソコンに記入する。
ある日、同室の三等陸士の不正が発覚した。ゴミ箱から彼が捨てたクスリが発見されたのだ。クスリをチェックすれば誰のものだかすぐわかる。彼も浅墓だった。階級では彼よりはるかに上官のナースが彼を叱責する。
「貴重な税金ば使こうてクスリばもろうとる人間がなんばしよっとか。こんクソガキが!」軍人病院にはなぜか九州出身のナースが多い。彼女の心の叫びが僕の心に聞こえた。
民間人でない三等陸士は当然、軍法会議にかけられた。懲役3年、執行猶予一年と6月の判決。日に500回の腕立て伏せと毎朝通学児童のための緑のおじさんのボランティアがペナルティーとして科せられた。
彼は入院した時より、悪い顔色で退院した。これもまた人生。
僕は今、あと何時間かかるだろうわからない点滴を見上げ、たいして減らない液を眺めひとりため息をつく。そして勝手にストッパーをルーズにして落ちる速度を速めた。あと20分もすると昼食がやってくる。しかし、ぜんぜん腹が減らない。おクスリでお腹がいっぱいなのだよアケチくん。
1000カウントダウン、いよいよベスト「3」