少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

1047 錦糸町にて1

「我が身可愛く」はこの項のプロローグ。
5/15、錦糸町の老舗和菓子屋の若旦那Tにまたしても騙され、錦糸町にやってきた。珍しく冷たい雨が降っていたが、僕は傘など差さず、パーカーのフードをかぶり、慣れた路地を早足で歩いた。パーカーはいい、ネズミ(まゆゆ)はやっぱ可愛いなとオッサンひとり思い歩く。
指定された時間まで小一時間、懐かしの大衆ステーキハウス「ビリー・ザ・キッド」で腹をこしらえよう。まだ店はあるのかな・・・?
おお、あったあった、まだやっとるわい。
この店のメニューはいたってシンプル。3種類のステーキかハンバーグのみ。最安値のインディアンは200グラムの端切れ肉でサラダ、ライス、超薄いコーヒー付きで1090円。最高値のキッドステーキでも1890円で、いつかはこいつを食ってやろう・・・と30年前から思っているが、まだ一度も食したことはない。結局、考えた末「じゃあインディアンで・・・」と注文する。
店には朝青竜の浴衣を着たおすもうさん二人と、そのタニマチだろうか太った西洋人のおばさん。ひとりの力士は流暢な英語を話していた。そしてぜんぜん羨ましくないアベックが二組。「みんな頑張れよ」と心でエールを送る。それにしても超無愛想なウエイター。実に珍しい。あるいは対人恐怖症か自閉症か、ただのふて腐れ野郎かようわからんが、ようあんな態度で客商売がつとまるなあ、あるいはもしかして店のオーナーか?それとも縁故採用か?このご時世に、そんな無粋な態度でよう仕事にありつけたな、あのころの自分なら、もうとっくにテーブルひっくりかえして、やっぱ土下座のひとつもさせてただろうな、でも、ここの肉喰いたいし、昔ほど腹も煮えくり返さないし、俺もオッサンになったなあと、思う間に「インディアン」登場。ん〜〜まいッ!まあいいや、バカウエイターはほっておこう、いつか誰かが制裁してくれるだろう・・・などと考えながら、200グラム完食。たまらん美味さじゃのう(もちろん1090円の美味さだけどね)。
さて、このコーヒーだか紅茶だかわからん超薄いコーシーをすすっていると、やっぱり、おっぱじまりました、ぶん殴り合い。厨房のアンちゃんとバカウエイターが客のことなんか、まったく無視して狭い店内で殴り合いです。
後から入ってきた草食系リクルートスーツ4人組の真後ろの席で掴み合い殴り合い。それでももくもくと肉をほおばる4人組もしたたかだが、きっと彼らが何をしているのか理解不能なのだろう。
アベックはかたずをのみ、僕は、やはり後から入ってきて、僕の隣のテーブルに座った兄ちゃんに解説する。
「うん、やっぱり始まると思ったよ」
「なんかあったんすか?」
「あのウエイターのアンちゃんの態度みたでしょ?」
「はあ、ひどかったっスねえ」
「ちょっと有り得ないよね、このご時世で・・・」
「いや、自分もそう思っていました」
「でも、まあ、いまどきのアンちゃんはあんなもんかな、しかも錦糸町だし・・・って俺は黙っていたんだけど、ぜったい誰かに殴られるだろうなって思ってたんよ」
「そうなんですか〜」
そして殴り合いはさらに激しくなる。
「今、お客さんいる。わかった、わかったから、あとで、話する、今だめ〜、お客さんいる、わかった、おれが悪かった、あやまる、ごめんなさい」とたどたどしい日本語は厨房のアンちゃん。
それでもバカウエイターは「そんなのカンケーねえ」で攻撃を続ける。
「あれって日本人同士ですか?」と隣りのアンちゃん。
「さあ、わからんけど、日本人同士なら珍しいよね、この状況下で」
「たぶんどっちかが外人ですね」
「なに、中国?韓国?」
「たぶん厨房が中国で、ウエイターが韓国」とアンちゃん。
「なるほど鋭いねえ」
「でも、こんなとこでやりますかねえ普通」
「だからさ、1000円で肉喰ってさ、リングサイドでK1見せてもらったと思えばいいじゃん。俺もう食い終わったから、このまま食い逃げしてやろうかな?」
「アハハハ、それ、いいっスねえ」
結局、バカウエイターが店を出て行き、厨房のお兄ちゃんが客ひとりひとりに頭を下げて回った。
「で、どうしたのよ」と僕が訪ねると「あの人、態度悪くて・・・」とお兄ちゃん。聴けばお兄ちゃんが中国人でバカが日本人。「そうか〜それはいかんな、日本の恥じゃ。アイツは経営者か?」と僕。
「いえ、僕も、あの人もアルバイトです」
「よし、キミは悪くない。あいつクビにしたろか」
「ああ、大丈夫です、アリガトゴザイマス」
でも、久しぶりにええもんを見せてもろうた、と感謝。昔は毎日のようにこの街の酒場では誰かが殴り合っていたのに、まるで嘘のように、そんな光景は消えた。レトロファンの僕にとっては昭和への束の間のタイムスリップだった。それにしてもY永が居なくてよかった。年商数億円の土建屋の社長になったあいつも、すぐに人の喧嘩に飛び入りしてぐちゃぐちゃにしてしまうから、後始末も大変なんだ。数年前は逆にこちらがお世話になってしまったけどね。
そこへTから電話。「安藤さん今どこですか?」「ビリー・ザ・キッドでプロレス見てるよ」「ビリー・ザ・キッド?どこっすか、そこ」。錦糸町で生まれ育ってるのに、相変わらず間抜けなヤツ。(つづく)