少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

1394 横浜紀行5

久々に来た関内だが、昔と比べ、かなり開けた感がある。人も多い。
「行きゃあ、すぐ、わかるわ・・・」という謎の男の言葉を信じて、ふらっと来てしまったが、本当にすぐにわかるのだろうか?せめて店名くらい聞いておくべきだったか。
後悔先に立たず、とりあえず誰かに聞いてみよう。
「すみません、この近くに親切丁寧な眼鏡屋さんはありませんか?」
「さあ、わかりません」
「すみません、この近くに・・・」
「店名は?」
「さあ、それがわかりません」
「う〜ん、それは厳しいですね。わかりません、ごめんなさい」
3人、4人、とりあえず、手当り次第10人、20人に聞いたが、誰も知らない、という。
あたりは夕闇が忍び込み、空気が冷えてきた。
馬車道で、ひとりの親切な青年と出会った。彼はその店を知っているという。おお、ついに見つかった。
「親切丁寧な店で間違いないですよね」
「そうです、親切丁寧な店で間違いありません」
「だったら間違いありません。親切丁寧な店ですから」
「それは、ありがたい、良かった」
「すぐそこです。ご案内いたしましょう」
「いや、それにはおよびません、道順さえ教えていただければ」
「いやいや、遠慮はご無用です。実は、僕、その眼鏡屋の隣のメンズブティックの店員で、これから店に行くところなんです」
「これから御出勤?深夜営業でもされるのですか?」
「いやいや、ただの休憩帰りですよ。でも、その眼鏡屋さんですけど、凄い品ぞろえなんです。センスもいいし。実はうちでも眼鏡を扱いたかったんですけど、とてもお隣さんには太刀打ちできないので、眼鏡は断念しました」と青年。
こりゃ期待できる。さすがは謎の男だ。
そして着いた。青年が得意気に眼鏡屋の自動ドアを開け、「お客さん、お連れしましたよ〜」と店主に告げる。「僕の店、隣ですから、もしよろしかったら、帰りにお立ち寄りください」と青年は立ち去った。
そして、青年と入れ替わるように「ようこそ、いらっしゃいませ」と実に品の良さそうなご高齢の御夫婦が僕を迎えてくださった。
う〜ん、これは眼鏡屋というよりは、ちょっとした眼鏡ブティック。芸能人御用達か・・・?
「どのような眼鏡をお探しですか?」
「本当は、ふちなしが欲しかったんですけど、素敵なのがたくさんありすぎて、気が変わりました」
「そうですか、それは良かった、どんなのがよろしいか、どうぞご覧ください」と柔和な笑みを浮かべたご主人が、ウンチクを傾けながら、特殊ケースから、次々とビンテージものを出してくださる。どれも素敵だ、みな欲しくなる。が、お値段も凄い、本当に芸能人御用達だろう。
謎の男の眼鏡が急にオモチャに思えてきたが、値段がぜんぜん違う。男の眼鏡が10個くらい買える金額だ。謎男の言う店は本当にここなのだろうか?僕は平常心を装い、何気に金額をチェックしたが、みな、やはりゼロがひとつ余計についている。ここじゃない。
僕は、この親切丁寧な眼鏡ブティックの店主夫妻に深々と頭を下げ「また寄らせていただきます」などと大嘘をついて店を出た。約束通り、隣の青年の店に立ち寄った。
「いや〜いい眼鏡屋さんですね〜、店主の人柄もいいし」
「ですよね〜。あのご主人は眼鏡屋じゃなくて、眼鏡ソムリエって呼ばれてるんですよ」
「眼鏡ソムリエですか?」
「そうです、眼鏡ソムリエです」
「いい店を紹介していただき、ありがとうございました」
ぷぷぷぷぷ・・・。あの三河の謎男が、眼鏡ソムリエから買うわきゃねえ。やっぱ違う店だわこりゃ・・・。僕の眼鏡屋探しは「ふりだし」に戻り、青年に礼を告げ、暗闇の馬車道を再び彷徨の途についた。(つづく)