少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

1503 宇宙を包み込む ありがとうの旅

昨12/14付、「まりんかの日記」さんからの転載です。
気持ちが引き締まりました。


ーーーーーー以下全文転載ーーーーー

ありがとうの旅


理念と経営12月号より
ありがとうの旅(随想)      大越 桂(詩人)
 言葉が通じるようになって
     一番うれしかったのは
        直接ありがとうが言えること


 また今月も十一日が来ました。震災一周年の三月十一日からというもの、毎月次の十一日までに起きた出来事の中から良いことを選んで心の引き出しにしまうのが新しい仕事になりました。ひと月前の私とは少しだけ変化した自分を確かめる時です。
震災は突然きました。頭から布団をガバっとかぶせられた暗闇ごと横揺れするベッド。そのまま振動で放り出されるのではないかと恐ろしかった。一緒にいた弟にも軽度の知的障害があり、とても恐がっていました。私と弟を一人づつ抱えながら「大丈夫!」と叫び合う母とヘルパーさんの声、飛び散る瓦が割れる音を聞く間、全身を耳にして息をするのも忘れていました。
障害が重く一日のすべてを人の手にゆだねる私の生活は普段から綱渡りです。

・・・・私と弟の二人を在宅で介護する母は給水や支援物資を受け取りに外出することができませんでした。とうとう十日目に食料がなくなり、私は思い切ってブログに「SOS!」と書きました。そのとたん なんと数時間で近所の人や友人があっという間に助けに来てくれたのです。
人の優しい心が起こす行動が響きあう波紋。今も止まらず広がっています。震災では大変なことだけでなく、いいこともたくさん起こりました。たくさんの希望が多くの人を動かしています。

・・・・寝たきりでずっと何もわからない子として育ってきたわたしでも、幸いよう聞こえる耳で多くのことを知りました。でも、自分から周囲に働きかける手段がないことが大きな悲しみでした。言葉にはならなくても「あ〜」や「う〜」という声で気持ちを伝えようとしましたが、ほとんど伝わりませんでした。いてもいなくても同じ。モノと大して変わりません。次第に気持ちが伝わらない苦しみが募り何度も嘔吐が襲いました。命にかかわる肺炎を繰り返し、気管切開でたった一つのコミニュケーション手段だった声さえ失いました。まるで海の中で泥の中に沈む石。意志のある人間なのに、誰にも見つけられない。
それでも、私を人として接してくれる人には目線や動きで気持ちが通じるときもありました。支援学校の先生が文字を書く事を教えてくれた日。十三年封じ込めてきた心の扉が開いた日。これで石でなくなる。これで人になれる!体中の細胞が飛び跳ね、喜びのあまり眠れませんでした。一年かけて必死に五十音を書く練習をしました。そのあいだも伝えたい言葉が後からあとからあふれました。

・・・・言葉が通じるようになって一番嬉しかったことは直接相手にありがとうがいえることでした。それは誰かに代弁してもらうのとはまったく異なる喜びでした。自分のありがとうに瞬時に跳ね返ってくる明るい声は、見えない私の目にも輝く笑顔を見せてくれました。

・・・・重度障害者は何もできない人ではありません。内面も気持ちも、見えなくてもそこに確かにあるのです。そしてとてもささやかな少しのことでも、誰かの役にたちたいと思っているのです。その喜びを確かに感じる力だってもちろんあります。それが今を生きる命の喜びです。
それを伝えることが私の役割なら、多くの人に助けられている命の恩返しに精一杯詩を書く事=生きることです。

・・・・ありがとうで誰かを幸せにすると思っていたけれど、一番幸せになったのは私でした。ありがとうの旅は宇宙さえ 包み込みます。今、目の前にあることに少し困難が伴っていても、永い時間に育てられた今が必ずどこか先のあなたに届くでしょう。この道のりはありがとうがくれた幸せスパイラルです。その一瞬に関わっていられる「今」を「ここ」で感謝できる自分でいたい。さあ、今日も新しいありがとうと出会う一日のはじまりです。



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  少し紹介するつもりが8割がた書いてしまいました。
きょう、手にとったこの理念と経営のこのページに出会ったのは偶然ではない気がします。
先日のかっこちゃんのお話と紙屋先生のお話しを立証するかのような重度障害者のかたのまさに心の叫びを聞いた思いです。


きもちのこえ 十九歳・ことば・私

作者: 大越桂
出版社/メーカー: 毎日新聞社
発売日: 2008/03/29
メディア: 単行本
ーーーーーーーーーー以上ーーーーーー

ありがとうの旅は宇宙さえ包み込む・・・。
ありがとうがくれた幸せのスパイラル・・・。
とても深い言葉だと感じます。