少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

4715 パレスチナの憂鬱

7/31/14

24年前の話です。湾岸戦争の取材で、アンマンからボーダーを越え、イスラエルへ。
たまたま居合わせたドイツ人、フランス人、オランダ人と私の4人で、タクシーをシェアして、エルサレムに行くことになりました。
目的地がピンポイントでみな同じなら、料金は単純に4で割れば済むことでしたが、みな微妙に違う。で、誰がどう払うのか、いずれにしろ、日本のタクシー料金と比較すれば微々たるもの。しかし、私を除く3人は延々と30分も、料金のことを論議する。
「で、あんたはどう思うんだ?」と突然振られ、
「ああ、俺は、3人が決めたルールに従うよ」と答えると、3人から呆れた表情で、「フン、日本人はいつもこれだ」と言われ、返す言葉がありませんでした。

これは、ヨルダンのタクシー運転手と日本人男性の車内でのやりとりです。
NHKの報道や池上彰氏の解説には出てこない話だと思います。
誰が善で、誰が悪なのか?
勝てば善で、負ければ悪という構造は太平洋戦争で、日本は経験済み。
だとしたら、過去2000年、そして、この先も完全決着がつくまで、永遠に続くであろうこの戦争。
対岸の安全地帯にあるユダヤ系スタバで、プチ優雅をくつろぎながら、世界を憂うふりをする、私と、多くの日本人は、「あんたは、どう思うんだ?」と振られても、あの時の自分と同じように、ひとつの輪の中にいるにもかかわらず、他人事としてしか考えられない。

 

 

 

 

ー以下 ネット記事ー

ヨルダンの首都アンマン、ダウンタウン。東洋系の男がザックを肩に、手を振りまわしている。何台かのタクシーに無視され苛立っている様子。しかし、ようやく一台のタクシーが10メートル先に急停止する。男は走って追いつき、助手席に乗り込む。まもなく車は発車。

乗 客 セーフウェイマーケットまでたのむ。
運転手 オーケー!
乗 客 おい、メーターがたおれてないぞ。
運転手 メーターは壊れている。
乗 客 うそつけ! さっきスイッチ切ったじゃないか。
運転手 お前、何人だ。
乗 客 日本人だ。
運転手 じゃ、2ディナールだ。
乗 客 何い! 1ディナールでも十分だ。俺は降りる。車を止めろ。
運転手 車は止まらない。
乗 客 何だと。がめつい奴だな。
運転手 がめつい? この俺が? このパレスチナ人の俺が、がめついだと。国もない。家族もない。俺は1968年にクウェートで生まれ、クウェート人にこき使われ、1991年 にすべてを失い、難民としてここに来た。俺はがめつかったか?
乗 客 う~む。

車は高級住宅街を走ってゆく。運転手は窓の外を指差しながら、さらに叫びつづける。

運転手 こいつらを見ろ。パレスチナ人を召使いにして、3人も4人も女房をはべらせ、10人もの子供をプールで遊ばせている。ところが、この俺が欲しいのは、たった1人、たった1人の息子だ。でも、お前、結婚するのにいくらかかるか知ってるか? 6000ディナ-ル! 6000ディナールは最低必要なんだぞ。一方、俺の生活はどうだ。この車は1日15ディナールのレンタルで、俺の1日の売り上げは20ディナール。食事とガソリン代、もろもろ引けば1日2ディナール残ってればいいほうだ。いったい何日で結婚資金になる。えーと。えーと。
乗 客 3000日!
運転手 そうだ! 3000日だ。あぁ、神さま、わたしに息子をお与えください。

運転手は両手を天にかかげ、祈りはじめる。乗客は青くなって運転手の膝をゆする。

乗 客 おい! たのむ! ハンドルをにぎってくれ!

運転手は、我にかえって前のバスをあやうくかわす。乗客は大きく溜息をついて、運転手の膝から手を放す。

運転手 ありがとう。俺の名はサアド。お前は?
乗 客 ヒロ。日本の学生だ。お前の話はよくわかったが、俺には関わりのないことだ。

運転手はニヤリと笑って。乗客の肩に手をまわす。

運転手 俺は日本人が大好きだ。なぜだか知ってるか?
乗 客 さあ。
運転手 アメリカに牙をむいたのは、ヒロヒトとサダムだけだ。
乗 客 おいおい。
運転手 が、日本は負けた。日本が負けなければ、俺達はこんな目にあわずにすんだんだ。
乗 客 あれは負けてあたり前だ。勝ち目などもともとなかった。
運転手 負け方が問題だ。ヒロシマナガサキで日本人は女になった。おかげでアメリカはいい気になって、やりたい放題だ。サダムをみろ。戦争で負けても、偉大な男じゃないか。ムバラク 、アジズ 、アサド 、キング・フセイン 、みんなアメリカの女だが、サダムは男だ。ヒロ、お前は男か?
乗 客 男だ。
運転手 ヒロシマナガサキを覚えているか?
乗 客 覚えている。
運転手 じゃあ、アメリカと寝るな。イスラエルを追い出せ。俺は自分の国を見てみたい。
乗 客 追い出すって、ユダヤ人はどうなる。
運転手 俺が知るか。海に行けばいい、何なら火に放り込んでもいいさ。
乗 客 お前の話はむちゃくちゃだ! いまの日本人は平和が好きだ。お前が中東の平和のために何かする気になったら、日本人は喜んで手を貸すだろう 。サアド、そんなんだったら、一生、1日2ディナールだぞ。

信号停車。ようやく運転手は沈黙する。2人はフロントガラスに張り付いたカゲロウを眺めている。カゲロウは、しばしゆらめいているが、やがて風に乗ってすっと飛び出してゆく。信号が変わり、車は発車。

運転手 実は、俺はドイツに行こうかと考えているんだ。
乗 客 ドイツ? そこに何があるんだ。
運転手 民主主義。そして、自由。
乗 客 自由とは、すべてのチャンスを足し合わせたもの。サアド、お前にも未来があるじゃないか。
運転手 そうだ。ドイツは民主主義の国。自由がある。中東にチャンスはないが、民主主義の国にはある。ドイツ、イギリス、フランス、アメリカ、そして…
乗 客 おい。サアド! いまアメリカって言ったな!

運転手は少しおろたえた顔になるが、高笑いする。逆に、乗客がとまどった顔になる。

運転手 そうさ、アメリカは民主主義の国。自由の国。だが、それは内側に向けてだけなのさ。外に向けては、何ひとつ相談しようとはしない。ただ、頭ごなしに押さえつけるだけ。外の自由を許そうとはしない。だから、おれはアメリカの中に住みたいのさ。
乗 客 なるほど。お前の言うとおりだと俺も思う。
運転手 だろう。ところで、日本はどうだい? ヒロ。日本は民主主義の国。平和の国。俺にチャンスを与えてくれるかい?
乗 客 いや…、サアド、だめなんだよ。日本は外国人労働者を受け入れないんだ。来ても、すぐ追い返されるだろう。
運転手 なんだって! 日本人は随分がめついんだな。

車はマーケットの駐車場に入ってゆき。アーケードの正面で停車。

運転手 さあ、ヒロ。お前はもう俺の友人だ。いくらでもいいよ。今度はドイツで会おう!

運転手は満面の笑みで、乗客に敬礼のポーズをとる。

乗 客 そうやって、かっこつけてるお前は、本当にかっこいいよ。サアド。

乗客はつぶやきながら2ディナールを手渡して車を降りる。目的を達成した運転手はニヤリと笑ってアクセルを踏む。乗客はマーケットの人ごみにまぎれてゆく。

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