少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

347  美しい東京

心の底からホッとする風景がある。
成田空港から都心に向かう湾岸道路。レインボーブリッジから見える東京タワー。もしくは隅田川方面に向かうルートで行けば、建設中の東京スカイツリーを望む下町慕情。
もう数えきれないくらい、この景色を見て来た。アメリカや中国からの帰り道。とてつもなく安心する風景だ。
何といっても美しい。僕が見てきた世界の中でも、やはり東京が一番美しい。
中国の上辺だけの張りぼて建造物とはまるで違う。外から見ただけで一目瞭然だ。日本の建造物には中身がある。しっかりとした中身が。
大きなビルも小さなビルも、気まぐれに建てられたとはとても思えない。どの角度から見ても、それは1ミリの誤差も無く、最も美しい配列を意識して正確に建てられたとしか思えないコントラストを描いている。
外壁も美しい。毎日毎日、誰かが外壁を磨いている。高速バスの車窓からでも、それはよくわかる。美しすぎる壁と窓。
あのガラス張りのビルのてっぺんではどんな奴がどんな仕事をしているのかな?エリートには違いないけど、きっと半分は僕よりボンクラだろう。実は本当にそう思っている。
品行方正野郎とか親のコネ入社野郎のほとんどは、本当の意味でパラサイト社員じゃないのか?みなさんの周りにもきっといるでしょう、うじゃうじゃとね・・・。社会は平等でも公平でもないよ、絶対に・・・などと青臭いことを。
そんな憤りさえ、この風景は和ませてくれる。この日は隅田川ルートだ。学生、社会人時代の6年を過ごした両国近辺に差し掛かる。押上の東京スカイツリーが近づいてくる。「ああ、両国と押上ってこんなに近かったんだ」スカイツリーが距離を教えてくれた。
押上の彼女、元気かな。大洋ホエールズのファンだった。もう25年以上も前の話。僕の不埒が発覚して、彼女が僕にくれたサマーセーター、僕の目の前で無言でハサミでズタズタに切り裂いたよね。セーターの次は俺の番かな・・・って、マジ恐かったよ。ごめんなさい、許しておくれ、そんなつもりじゃなかったのさ。
隅田川を抜け、日本橋三越が見えてきた。僕のじいちゃんとばあちゃんが最初に所帯を持った街、明治時代に。日本橋のどこに住んでいたのかな。何度か歩いてみた、あてもなくね。親父が生きていりゃ、だいたの場所くらいはわかってたのになあ。
高速道路から暮れゆく太陽が見える。昨日、中国の僕の部屋から最後に見た夕陽。「そうか、僕のマンションはこの角度で建っていたんだな」夕陽が方位を教えてくれた。
均等に配列された美しい灯りの街路灯。美しい色の交通信号。上品な色と決して主役になろうとしない、控え目なネオンサインたち。秋の街を歩く人々の着こなしも美しい。
こんな素敵な街が、こんな勤勉な人々が、こんな苦しみを乗り越えた国が中国なんかに負けては決してならない。
企業売買、不動産売買・・・目先の利益にとらわれやがって・・・。
僕はいつまでも日本が自分の祖国であり、東京が故郷であって欲しいと切に願う。
新宿駅からいつものように京王線には乗らず、タクシーを拾った。少しでも早く帰宅したかったからだ。笹塚の自宅には確かに誰かがいるような気配がした。金魚も元気だった。
夕方6時半。僕の食事はない。涼しくなった商店街を歩き、伸びた髪を切った。いつもの1000円床屋。自然食の店に行き、売れ残りで半額になったプラスチックの箱に入った弁当を買った。しなびた親父がやっている角のヤオヤでは本日で期限切れの水戸納豆が1個10円で売っていた。
僕は残された2個を買い占めた。僕の20円を親父は両手で受け取った。
もう日が暮れた。家までの200メートルの緑道公園は月に一回は業者の手入れが入る。植木たちは僕の頭髪よりきちんとセットされている。美しい街・東京。
自宅に戻る。人の気配はするのだが、僕の視界には入らない。まだ8時前。テレビはついに映らない。音だけ出る巨大なラジオになってしまった。
弁当は進まない、納豆は明日の朝にしよう。弁当は半分でギブアップ。麦茶で流し込む。中国の知人たちに「無事着いたよ」電話を入れる。
帰国したのに身体に力が入らない。多量の点滴で肝臓をやられたのか?
美しい街・東京で俺はひとりで寝る。中国の病院のベッドとどっちがいいかい?さあね、ひとりじゃおんなじだぜ。
チャミーがいたころはいつも一緒に寝たのにな。ああ、チャミーに会いたいぜ、夢の中でもいいからさ・・・。