366 小さな恋人
僕の笹塚の自宅には天窓があり、このブログを書いているテーブルから、少し膨らんだ半月が美しく見える。天気予報は雨だったが、東京は晴れ、久しぶりに心地良い日曜日を過ごせた。
きょうは僕の小さな恋人(10歳=非営利・社会福祉)と半年に一度のデート。前回は品川の水族館に行ったが、きょうは新宿の映画館に行った。
彼女のリクエストで「君に届け」(多部未華子、三浦春馬主演)を観た。最初は気乗りしなかった。漫画が原作の学園恋愛ストーリー。大人1800円、子供1000円の都合2800円。内心「あ〜もったいねえ」と思いつつも可愛い恋人のリクエストなので笑顔で応えた。
で、恥ずかしながら映画の途中で何度か涙を拭いた。小さな恋人といると、こっちまでピュアな気持ちになるのかしらん、いい映画でした。
コブクロの「恋心」「東京の冬」という曲を思い出した。好きな人に、届けと飛ばす恋心。僕の気持はあの娘(注・10歳の子のことじゃないよ)の心に届いているのかな?飛ばした恋の種が、あの娘の心で芽生えてくれれば・・・なんてね。
時計を見るとまだ正午前。もう一本観ようかということになり、今度は「借りぐらしのアリエッティ」(志田未来、樹木希林)が観たいと恋人がいう。アニメ・・・かあぁ。う〜ん仕方ねえ。洋画じゃまだ字幕についてこれない年齢だし・・・。
で、泣きはしなかったけど、2時間弱の映画があっという間に感じられた。なるほど、これが世に言う「宮崎駿作品」か。劇場で観て、初めてその評価が理解できた。細部へのこだわりが本当に凄い。小さな恋人に新しい世界へ招待された気分になった。
終了後、僕たち二人はサイゼリアでピザとスパゲッチイを食べた。周りから見たら僕たち二人はどのように映るのだろうか?父娘か?じいさんと孫か?まあ、それなりに、なついてはいるから誘拐犯には見えないだろう。
実は中国にも一人、同じ10歳の恋人がいる。こちらは言葉が通じないので通訳も一緒だけど、食事をしたり、文房具を買ってあげたりしている。この娘には両親がいない。けれど、明るく天真爛漫に生きている。僕はこの娘から多くのエネルギーをもらっている。
遅い昼食を終えてもまだ昼下がり。僕らは都営新宿線に乗り神保町で降りた。神田の古書街をぶらつき、明治大学のキャンパスを見せてあげようと向かったのだ。
たまたまだったが、ラッキーなことにこの日はなんと「ホームカミングデ―」とかで卒業生や家族にキャンパスを公開する日だった。
各種イベントが催されていて、校舎に出入り自由。今年度の明治の受験生は早稲田を抜いて、日本一の人気大学になった。確かにこのキャンパスビルは凄い。人気が出るはずだ。これは他の大学を間違いなく圧倒している。図書館、食堂、シアター、博物館、エントランスからトイレまで、これは最早、学校ではなくホテルか一流のオフィスビルだ。
アルゼンチンタンゴ、ジャズ、マンドリンクラブの演奏、図書館、博物館と僕は小さな恋人の手を引いて、ゆっくりとキャンパスを巡った。
僕らが学んだ明治大学11号館という、伝統の校舎は、今も昔もまるで倉庫のような四角い建物で、階段も廊下もドアもむき出しの鉄とコンクリだけの建造物だが、ここは最早用無しなのだろう。あとは解体を待つだけの雰囲気にさらされていたのが、もの悲しかったが、これも時代の流れ、いた仕方ない。
僕は小さな恋人の手を引き、お茶の水から新宿に向かった。お茶の水駅から見た夕焼け雲が美しかった。電車の中で彼女は眠った、さすがに疲れたのだろう。
僕は約束の時刻までに彼女を約束の場所まで送り届けた。帰り道、僕はローソンで彼女におでんを買ってあげた。彼女は玉子とこんにゃくを選んだ。本当は大根が食べたかったのに売り切れだった。
楽しい一日をありがとう。僕は心の中で彼女にそう言った。また半年後にデートできるのかな?
ふと見上げると、さっきの月はもう移動して天窓から見えなくなっていた。いや、移動しているのはお互いさまか。人生はつまり、一度として同じ姿はない永遠の万華鏡(ユーミンのパクリ)なのだ。
あと10年して、少女が大人になった時、この日のことを思い出してくれれば、そんな嬉しいことはない・・・などと思いつつ。