少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

394  喫茶店設立状況29

朝7時、トヨジから電話。「おい、今から行くぞ」。
俺、きのう寝たの3時すぎ。このクソ寒いのに、部屋に蚊がいて眠れず、ベープを探してつけたのが5時前。それでもトヨジがエキストラジョブに来てくれるという。友達は有難い。
かねてから、最大の懸案だった看板と窓の外枠(木枠)の取り付け工事。当初は足場を組んでやる作業で、ざっと見積もって、足場代と作業員代で軽く10万円はかかる予定だった。ところがトヨジが「もしかしたら、ハシゴだけでできるかも知れへんな。まっ、いっぺんやってみるだかや」といって、トラックにハシゴを積んできてくれた。
10時になると一階のブティクがオープンするので、開店までの3時間で片付けなければならない。
「50過ぎてやる仕事じゃねえな」と言いながらトヨジは不安定な足場をものともせず、次々と2階の窓の外枠を取りつけてくれた。頼もしい。実に手ごろな奴がいてくれたもんだ、と言ったらぶっ飛ばされるか?いやいや本当に助かった。
トヨジが言うには「これくらい危険な高さの方がかえって注意するから事故が起こらんだよ。一番死亡事故が多いのは、自分の背の高さくらいの脚立からの転落だ。俺も一回、落っこちて頭打って雨の中40分も意識不明だったでな・・・」。おっそろしい話だな。
それにしてもトヨジのお陰で、外観はカッコがついた。最高にいい雰囲気に仕上がったぞ。
僕は朝食を摂る間もなく、次の仕事に向かうトヨジのトラックで安城保健所まで送ってもらう。保健所の担当の男性はやたら親切な人で、いろいろと書類の不備を丁寧に教えてくれた。これで「審査に通ればすぐに開店できますよ」と明日の2時に審査官が店に来る。登録費用18000円、食品衛生の講座受講料金4000円、それに責任者の検便が必要でこれが550円だ。
申請は30分ほどで終わり、国鉄安城駅までぶらりと歩いたのだが、一歩また一歩と歩を進める度に、僕はとてつもない大きな不安に襲われた。
人が居ないのだ。しばらくは静かな町だな、くらいに思っていた。しかし、ふと気がつくと人とすれ違っていないのだ。もう10分は歩いただろう。だいぶ前に電動自転車のおばあさんにゆっくりと追い越されてから、まるで人間を見ていないぞ。おい、ここはどこなんだ。
遠くに新幹線が見えた。車は走っている。しかし、子供の泣き声も人の行き来する景色もない。ここは田んぼの真ん中でも砂漠でもない、紛れもなく市街地だ。
冷たい風に雲が飛ばされ綺麗な青空が広がっている。トヨタ様のお陰で道路は見事に整備され、名も知らぬピッカピカの車が静かに、でも何台も何台も走っている。それなのに人が見えない午前11時。
僕はかつてのメインストリートを歩いている。軒並みシャッターの降りたゴーストストリート。中国、東京で人波が当たり前、息もできないほどの窮屈なおしくら饅頭の中に、いつも居る僕にとって、これ以上の不安は他にない。遊泳区域からいつの間にか、波に流されて太平洋に飲み込まれた海難行方不明者になりかけている。
やっとの思いで国鉄安城駅に着いた。
そうだ、駅前で元ドラゴンズの「ショーゴー」選手が鉄板焼きをやっていると聞いた。ランチでも食べて行こう、と探し回るが見つからない。ごくタマにすれ違う人に聞くが誰も知らない。40分近く探してあきらめかけた頃、やっと知っているという人に巡り合えた。
「でも歩いていくのは、大変ですよ。とっても遠いですから・・・」
「えっ!駅前って聞いたんですけど」
「駅前・・・っていうか、駅の前の道をずっと行くとありますけど。車で7〜8分くらいかな」
田舎道の7〜8分は遥か彼方だ。僕はあきらめた。
国鉄安城駅から、名鉄安城駅行きのバスを待った。駅前も見事なシャッター通り。これが人口18万都市か?喫茶店に人が来るのだろうか?
「みんな何処へ行った?」中島みゆきの「地上の星」がリフレインして僕の頭から離れない。