577 上海日和1
ようやくネットが繋がりました。
きょうは久しぶり、というか今年はじめてのぽかぽか日和。
上海の日本レストラン「G」の屋上ガーデンで気持ちのいい空気を存分に吸う。日曜日なので街は静かだ。ほこりのかぶった屋外テーブルを拭いて、ここでランチでもしようか?そんないい天気です。
上海の冷たい空気や雨が、風に流されて東北地方に追い打ちをかける。そんな自然現象ですら、自分のせいか、こんな一大事に安全圏内に存在する自分に罪の意識さえ感じてしまう。せめて、この暖かい空気が、被災地に流れてくれないかと願うのは僕だけではないだろう。
さて、この店の再建にやってきて何日が過ぎただろう。携帯のカレンダーを虚しくカウントすると62日の夜を過ごし、63回目の朝を迎えた。僕は今、「G」の2階の窓越しの席から、がらんとした通りを眺め、こいつを書いている。吹き抜けの階下では中国人マネジャーと女給の子がなにやらもめている。きっと給料の支払いのことだろう。中国語なのでよく理解できないが、ここ数日はそんな問題でみんなが憂鬱になっている。
結論から言えば、本日が最後の営業日となった。
最後の最後の食材をしぼり出すようにして、S店長が作った苦肉のメニューはわずか数種類。しかも昨日と今日の土日は全品30元の「売りつくしセール」だ。しかし、客は来ない。沈みかけた船から逃げ出すのは鼠だけではなかったということだ。
千軒以上ある上海の日本レストランで、キャパの大きさから言えば5本の指に入る「G」が本日で消滅することは、この店の関係者以外、まだ誰も知らない。夜が明けて、明日、月曜日の昼になれば、いつものように80人近くの日本人サラリーマンがランチを求めてやってくる。
「本日より、店内改装のため、しばらくお休みさせていただきます」
最近、頻繁に変わるメニューの変更に加え、突然の張り紙に、常連客は何を思うだろうか?
「どうして納豆が無くなったの・・・?」「納豆は水戸から仕入れているんですよ」「ああ、そうか、そういうことなら仕方ないよね・・・」
「あれ、味噌ラーメン、きょう無いの?」「東北の製麺所から仕入れていたんですが、機械が全部壊れてしまったみたいで・・・」「そりゃ気の毒だよね・・・」
不謹慎だとは思いつつ、そんな嘘をついてS店長が常連さんに頭を下げる。もちろん怒る客は誰もいない。ただ、そばで聞いていて一抹の去就を感じざるを得ない。僕も寂しい思いだが、S店長はさぞ辛いだろう。(つづく)