581 上海日和5
僕たちは甘かった・・・。
昨3月28日月曜日のこと。ブログNO610を書き終えて、裏口から外に出た。「G」の閉店を、常連さんがどんな表情で見るのか確かめるためだ。
通常の開店時間午前11時30分。僕は店の前の道路の反対側にある公衆電話の影から電話をかけるふりをして様子を覗くことにした。
いつものように、カウンター7番に座るK藤さんが、一番乗りでやってきた。しばし店の前で腕組みをしたあと、何事もなかったように踵を返し、来た方向に戻って行った。
12時に近付くにつれ、南北2方向から、ぱらぱらと「K」へ向かうグループがやって来る。最初は店内2階の窓から外の様子を伺っていたS店長も、店の対面にある公衆電話の影に来て、僕と一緒に観察した。
僕らの描いたイメージでは、ぱらぱらではなく、客がぞくぞくと押し寄せ、閉店の貼り紙を目にした常連客がプチパニックを起こし、どうしたどうした?と店の前でア然ボー然と立ちつくし、本日のランチの行き場を失う・・・という光景だった。ところが道の反対側から観察していた僕らが見た現実はあまりにも残酷だった。
「あら、ここの店、閉まってるわ」
「あっ本当だ」
「ちぇっ、しょうがねえな」
「んじゃ、どこ行こうか?」
「もうちょっと向こうに何かあったんじゃない」
「ああ、あるある、んじゃそこに行くっぺか」
「んだ、そうすっぺそうすっぺ・・・」
とまあ、どいつもこいつも大方、そんな感じ。
「ひどい・・・というか、ある意味すごいっすね。ほんと・・・ど〜でもいい、って感じですね、Kが無くなったなんて。・・・って言うか、僕らがここで、こうして立って見ているなんて、誰も気がつかないんじゃないですか?逆に気がつく人がいたら、それは凄い人ですね・・・」
そんなS店長のやるせない言葉に、思わず笑った。
こうなることも、決して想定していなかったわけではなかった。「もしかしたら、こうなるかも知れないね・・・」などと冗談では想定していた。しかし、まさか、それが本当に現実になるとは、想定していなかった。僕らは甘かった・・・。