少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

596 再会上海9

「同じ数の出会いと別れ、でも割り切れなくて〜
余るほどの思い出を、いつまでも胸に咲かせながら〜」
コブクロの「ここにしか咲かない花」のワンフレーズが僕の脳裏でリフレインしている。同じ数の出会いと別れでも、いい別ればかりではない。
K会長もS店長も閉店にあたって、まずは従業員のことを第一に考えていた。「とにかく従業員の子たちのことだけは、しっかりしてあげて。僕が投資したのはビジネスじゃなくてヒトなんだから。そこだけは頼むね」とはK会長。「最後は自腹で、みんなに火鍋(鍋料理)でもごちそうして、もし、また上海で店をオープンする機会があったら、その時はみんなにまた声をかけて、手伝ってもらいたい。みんな本当によくやってくれましたから」とはS店長の言葉だ。
しかし、残念なことに、そんな浪花節的日本人善意など、この街、この国、この人たちには通用しなかった。
S店長自腹の火鍋が日本人的善意であり感謝の意であり交友の証というのは、あくまで日本人の発想だろうか?僕は押しつけがましいパフォーマンスとは思わない。S店長の従業員に対する純粋な感謝の気持ちだと思うのだが、彼らにとっては火鍋などど〜でもいいセレモニーという感じ。そんなことより銭をここせ。銭、銭、銭・・・。
営業最終日の3日ほど前あたりから従業員が銭の問題でモメ出した。ひとりひとり立場が違うので、一概には書けないが、要約すると最終日に未払いの給料全額と補償金(一カ月分の失業手当みたいなもの=勤続年数によって異なる)全額を支払え、というもの。
S店長と王マネジャーが必死で彼らを説得する。
「我々は中国の労働法に基づいた給料の支払いと補償金の支払いはきちんとする。ただし、みんなの給料日は翌月の15日だ。だから今は払えない」
「いやいやいや、そんなこと言って、日本に逃げられたらたまったもんじゃない。第一4月15日に、店はもうないじゃないか。だから今すぐ支払ってくれ」
「我々が給料を払わないで、日本に逃げるような会社かどうか、3年間一緒にやってきてわからないのか。それに中国政府にきちんと税金を納め、正式に企業登録している会社なんだから、逃げれるわけないだろ。もし、逃げるなら、もうとっくに逃げている。あなたたちのことをちゃんと考えているから、こうしてみんなにすべてを話しているんだよ」
「いや、信用できない。とにかく今すぐ給料を支払うべきだ」
「いや出来ない」
「わかった。だったら明日、労働局に訴えにいく」
彼らはとうとう伝家の宝刀まで抜き出した。
こうなるともう喧嘩腰だ。王マネジャーと従業員の一部が相当な剣幕でやりあっている。中国語だから言葉のひとつひとつはわからないが、内容はよくわかる。
「これなんとかしないと、みんな帰らないですよ」とS店長が僕に耳打ちする。店を締めるときに、従業員と給料の支払いでもめて、店内で暴れられたり、外のウインドウを割られたり、機材を盗まれたりした日本料理店の話を以前、S店長から聞かされたことがあった。(つづく)