上海での最後の2晩のことを書きます。
上海虹橋空港からタクシーにて「K」に向かい、店の前でS店長とN料理長をピックアップ。それまでは店の3階の個室をホテル代わりに使用していたが、もう住めないので、この日からN料理長のアパートに2晩居候。N料理長が店から僕用の布団を持ちだし、待っていてくれた。
アパ―トは築70〜80年くらいの中国独特の4階建て共同住宅。1階は共同の玄関と炊事場で、2階には老夫婦、3階と4階は「G」が社員寮として借りていた。寮といっても各階一室ずつの計2部屋だが、これがあるとないとでは、福利厚生の待遇面で天地の差がある。普通の日本人なら到底住めない古さ汚さ狭さ(FKS)の3拍子揃って、それでも家賃は1万6千元と高額。月給1万8千元の〜2万元のウエイトレスには借りられない。
されど僕は以前から、一度泊まってみたかった。骨董屋だから僕は嬉しい。僕以外には「どこでも寝れます」と豪語していたN料理長さえも「それでも2カ月が限界っすかねえ」と言っていたので、他の日本人にはとても難しい。
さて、「G」の明け渡しですったもんだした月曜日(4/11)はタクシーに乗り、遅い夕食をS店長の案内で食べに行った。「海底火鍋」という24時間営業の綺麗なレストランだった。
僕ら以外の人たちは真っ赤な激辛な四川鍋を汗もたらさず食べていたが、僕らには無理。僕らは柔らかな乳白色の豆乳鍋にした。十何種類も用意された、タレベースと薬味を自分でブレンドしてタレをつくる。そして各テーブルにひとりずつ鍋奉行がつき、「その肉はまだ赤いからダメだ」とか指導される。鍋に具を入れてくれたり、灰汁をとってくれるとは、中国では見たことのないサービスだった。
旨味のもとは、鍋の底(海底)に沈んでいた出汁用の乾燥海鮮なのだろう。注文した肉と野菜が、海鮮の薄塩でひきしまる。美味。可愛い彼女でも連れて行きたい綺麗な雰囲気。
さんざん食べて飲んで3人で400元ちょっと(5000円ちょっと)は納得の価格。よし、次回は彼女を連れて・・・とそれぞれが言い合うが、果たして誰が最初に実現できるか?
もう時刻は深夜2時少し前。客は減らない。疲れ果てた僕らはタクシーでアパートへ戻り、ファミリーマートで水と朝食のパンを買う。海底火鍋は本当に美味しかったが、誰しも気分が晴れたわけではない。鉛のコ―トを羽織ったような重い気分で「じゃあ、また明日」と解散する。
僕はN料理長の部屋で古(いにしえ)の上海に包まれながら眠りにおちた。(つづく)