少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

685 祭りと喧嘩3

僕は台湾のママさんが、この店の経営者とばかり思っていたのだが、経営者と呼ばれる男は、なんと乱痴気騒ぎの中に居た。これにはいささかあきれたが、と同時に「この店はこれが最後だな」とも思った。なぜならばちんちんの付いている経営者がのこのこ店に出てるスナックほど無意味な空間はこの世にはないからだ。
カウンターの井上陽水も、歌ってみてさすがに気付いたのだろう「お客さん、よくこんな状況で歌えますね」と僕を尊敬の熱い眼差しで見つめてきた。そら私はプロオケ(プロカラオケラー)ですからね、かなりの修羅場はかいぐぐってきていますし、起点になる音をひとつでも拾えれば、多少外してもある程度は修正できる。画面の速度に合わせると完全に狂うので、画面は見ずにスピーカーに集中し、片方の耳を指で塞ぐなど、テクをフル活用するのだ。
年配のご夫婦は、さすがに響をキープしているだけあって、かなりの実力者なのだろう、経営者の男と乱痴気リーダーの男をカウンターで挟み打ちにして一時間近く説教をはじめた。だからといって奥の残党が大人しくなったわけではない。ただマイクもスピーカーも環境も選ばないことがプロオケたる所以、完全に自分の世界に入っている僕に不自由はさほど感じない。どんな環境下でも最高のパフォーマンスを演出するというポリシーにおいてはレディー・ガガと一致するところだ。
ガキの声も、おっさんの声も、経営者の顔も、一切余計なものは僕の中には入ってこない。もの凄い集中力で武道館のステージに立つ僕は、あの娘のためだけにリハーサルを重ねてきた平井堅の「missing you〜」を歌う。私はただのカラオケおやじではない。
「いや、お客さん、本当に凄いですね」ママさんも、カウンターの陽水も絶賛する。当然だ、ムフフフ・・・。
されど時刻はすでに深夜一時を過ぎている、にもかかわらずガキ二人は興奮して元気いっぱいだ。さすがに僕はママにひとこと言う。
「東京都の都条例で午後10時以降は、たとえ親が同伴でも野球場もサッカー場もゲームセンターも小中学生は帰宅しなければいかん。ましてやここは酒を提供する風俗的な店。もし警察に通報されたら条例違反で営業停止になるやむ知れんぞ」と。それでもガキの親どもは帰ろうとしない。こういう脳の足りない親がこれからの日本と子供の将来を台無しにすると声高に断言しよう。
響の旦那さんも経営者に「そりゃ客が騒いでどんどん酒を注文すりゃ、売上が上がって嬉しいだろうけど、そんな商売やってちゃダメだ。子供のこと、他のお客さんのこと、もっと考えて商売せにゃ、とても長続きせんぞ」と。流石である。
カウンターの僕を真ん中にして、長方形の店内では左側から子供たちの大声、右側から旦那と奥さんの説教する声で僕の両耳は完全に塞がれ、その合間を縫って、時折漏れてくるBGMを頼りに音を拾う。完璧ではないが、出来うる限り、ベストを尽くす。
そして、徳永英明バージョンでドリカムの「未来予想図Ⅱ」を歌い始めた時、座敷のファミリーがわさわさと立ち上がり、帰り支度を始めた。
「おおやっと帰るのか」と思い、ホッとしたのも束の間。「ありがとうございました」「お騒がせしてどーもすみません」「ワイワイガヤガヤ」「キャッキャキャッキャ」とそんな雑音が僕の左耳に近づいてくる。出口に行く奴らが狭い店内で歌っている僕の背中をこすりながら通っていくのだ。これは明らかに営業妨害、BGMが全く聞こえない。ついに僕がマイクをカウンターに置き「おいこら、ちょっと待たんかいボケ」とキレ、ファミリーのリーダーを掴まえた。
(つづく)