少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

987 Chanelの想い出

アンチブランド主義の小生は猫杓(ネコシャク)ヴィト〜ンやグッチさんやらにいささかの興味もない少数派。だから巨人も大嫌い(関係ないけど)。
そんな僕ではあるが、シャネルだけは少しだけ見方が違う。その理由が昨日4/3DVDで見た映画「シャネル&ストラヴィンスキー」で納得がいった。
夫を事故で亡くした30歳すぎのシャネルと妻子ある作曲家・ストラヴィンスキーの不倫劇だが、上品な作品。こういうのは大好きだ。
芸術家同志の繊細が鮮やかに描写され、実際もこうだったんだろうな、と神経の奥深くまで登場人物の心情が仔細に伝達された秀作。
CHANEL No5」の誕生経緯が興味深い。芸術は愛からも貧困からも生まれるが、願わくば愛から生まれたものを身に纏いたい。香りと声は闇の中でも、安堵を与えてくれる。「花の香り」ではなく「女の香り」、それが「シャネルの5番」。
ありし日の香港、ペニンシュラホテル。ある貴婦人(日本人)をシャネルに案内した。春の最新作、薄むらさきの手提げバッグ。上品なのはすぐわかるが、とても高価そうだ。このころ、僕は、この手の店に入ることが苦痛だった。意味ないし・・・。
彼女はすぐに手にとった。「あら、これ素敵じゃない。いいわね、おいくらかしら?」「高そうですね」と僕。「おいくらか聞いてくださいます?」と彼女。
僕は店員に尋ねた。彼女は絶対に買わないと思った。「日本円で80万円くらいです」「あらそうなの。いいわね。じゃあいただこうかしら。お支払はカードでいいわよね」。僕は心の中で叫んだ。「ちょ・・ちょっと待ちなさい・・・。まず落ち着いて、冷静に、よく考えてから決めなさい」
彼女は雑作もなくバッグからカードを出し「じゃあこれでお願いね」と僕に手渡した。落ち着かなければいけないのは僕の方だった。
お昼はサバティーニでのフル。貴婦人はすこぶる上機嫌で、結局、シャネルだけで100万以上の買い物をし、僕はため息に暮れた。
数年後、スタッフの女性に頼まれ、ビバリーヒルズのシャネルに飛んだ。もちろん商用のついでだが・・・。
彼女、どうしても欲しいバッグがあるという。日本の高島屋三越伊勢丹を回り、値段をチェックしたが、当然同じ金額だ。品物は50万円。彼女、それなりのお嬢様だ。大学の卒業式には、おそらく一度しか着ないドレスを40万円であつらえた。で、海外のショップで購入した方が為替レートと税金で一割程度安く買える・・・のだと。5万円は大きいから「いいよ」とふたつ返事。
ふらっと入ったビバリーヒルズのシャネル。Tシャツにジーンズはいいとして(ここの客の服装はみんなこんな感じ。日本人の観光客も大勢来るし)も場違いな男。それでも店員は服装や態度で客を判断しない。それは対応ですぐにわかった。流石だなあ・・・と感心した。
彼女に伊勢丹だったか三越だったかに連れて行かれ現物を確認したので間違うはずはない。
「ん、これ、なかなかいいじゃないか。彼女にプレゼントしようかと思うんだけど、どう思うかねチミ〜」などと冗談で余裕をかませてみる。こんな手の震えるような買い物、自分のゼニではとても出来まへんからねえ〜、といいつつも、前日はクロムハーツで約1000万円の仕入れ(もちろん100%仕事ですが)で金銭感覚は完全に麻痺。
店員さんが白の手袋をはめ、商品を見せてくれる。買うことは決まっているのに「どうしようかなあ〜」などとセレブ気分を味わうために、わざとためらう。トヨジが見てたら、きっと「こいつ頭おかしい」と思うだろう。金額は彼女が調べた通りで、当日の為替の誤差分だけ違う。
「じゃあ、チミがええというんだからもらっておこうか」と急に農協のおっさんになり、カードで払う。「あのお客さん、よれよれのTシャツだけど、かなりのお金持ちみたいよ。それにカッコいいじゃない・・・」と言う店員同志のひそひそ話は全然聞こえてこない。
駐車場のベンツとポルシェの間に停めた韓国製のレンタカーでは説得力もない・・・か。まあ、ええわい。
帰国後、彼女、相当喜んでくれた。これでまた、仕事頑張ってくれるなら、それもええか。と思ったのも束の間のこと。今度は少し暗い声で電話あり、一緒に伊勢丹に行って欲しい・・・とか。
件のバッグだが、よほど繊細に造られていたらしく、少し使用しただけで、日焼けし、チェーンにも不備が・・・。「50万円もしなのに・・・」と泣きっ面の彼女。「同じシャネルの直営でも、販売店が違うから対応できない」と予想通りの伊勢丹の対応。
翌月、再びロスへ飛び、バッグを持ってシャネルを訪れる。「チェーンの不備は無料で修理できるとしても、色あせは管理の問題では・・・」と店員。「彼女は初心者ではなく、シャネルのユーザーです。使用したあと、きちんとメンテナンスしてから保管しています。それにしても購入後、一か月での変色は製造過程に問題があるのでは?同じようなクレームはありましたか?」「ここでもいくつか販売しましたが今のところ、クレームはございません」「返品したいのですが?」「もう数回、使用されたということなので、いたしかねます・・・」
そこへ女性マネージャー(支配人)が登場。彼女は店員から事情を聴くと、僕は彼女の部屋に案内された。
落ち着いたリビングだ。コーヒーを出され、「今回は、せっかく当社のバッグをお買いあげいただきましたのに、こんなことになってしまい、大変不快な思いをさせてしました。本当に申し訳けございません。彼女様にもどうか謝っておいてください」「いやいや、これはあなたの責任ではありませんし、そこまで謝っていただかなくとも・・・」
「私にできることは、商品を返品させていただき、お支払いくださった金額を全額お返しすることしかできません。彼女様のがっかりしたお気持ちと、複数にわたり、あなた様がここに足を運んでくださいました貴重なお時間を修復することができないことが心苦しいのですが、どうかお許しくださいますように・・・?」
おいおいなんやよう知らん、涙が出そうになってきましたぞ。
他のブランドは、もちろん知らないが、シャネルの高額料金には、こんなシャネルのプライド、とかホスピタリティが織り込まれていたのだろうか。それともビバリーヒルズの支配人の個人的な人間性だったのだろうか?不愉快な買い物(実際には結局買わなかったのだが)が、最高に気分のいい買い物になったことを今も忘れない。
最後に僕は彼女に尋ねた。「どうしてここまで、親切に対応してくださるのですか?」
彼女は答えた。「私どもはバッグや香水だけを売っているのではございません。いちばん、大切にしていることは、お客様に満足していただくこと。それがシャネルの方針なんです」
トヨジ、泣くなよ。ああ、どなたか、このブログ、シャネルに転送してください。
話は映画に戻るがエンディングが素晴らしい。セリフはないが、その後のふたりを、短い映像が教えてくれる。本名はGabrielle Chanel=ガブリエラ・シャネル、Coco=ココは通称。1883〜1971年。物語は99年前の1913年に始まる。まだシャネルのぬくもり、体温を感じ取れる近い過去。