少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

1690 浄土からの声が聞こえる3

宮城県宮古市浄土ヶ浜・・・。
リアス(rias)・・・スペイン語の「ria」(湾)が語源とされる入り組んだ海岸・・・。
普段は、外湾に護られた、静かな凪が湾内で揺れ、白い砂と海鳥たちが飛ぶ観光地。荒んだ人々の心を癒してくれる浜辺・・・。


今さらとはいえ、よくよく考えてみる。どうして、どのようにして、この美しい湾が形成されたのか・・・と。
人工では形成不可能なこの絶景は、あきらかに自然が千年、万年、億年の歳月をかけてこしらえたもの。地殻運動に始まり、山地が盛られ、海底運動により、海水が山地を削り、記録には残らぬ太古の災害がそこにはあって、それを繰り返して、現在がある。
しかし、出来上がった完成品の美しさを見るにつけ、人は、それまでの苦労や苦悩は、どういうわけだろう、つい忘れてしまう。
それは新築の家の完成、あるいは少年のプラモデル、少女の塗り絵のようなもの。完成の美しさに、そこに至った経緯は、過去になってしまう。


そして、まさかの大津波
この浜辺から、ほとんど出たことのない老婆の命と、故郷は一瞬にして奪いさられた。
老婆には漁師の息子がいた。代々受け継いだ私有の浜辺(プライベートビーチ)もあった。浜の先には大きな家屋敷もあった。


老婆や老婆の両親、老婆の子供たち親戚たちの想い出や、日々の暮らしがきっしり詰まった家屋を地震が破壊し、アルバム、仏壇、卒業証書、結婚指輪、液晶テレビ、仕事道具、冷蔵庫、鏡台、長靴、シャンプー、犬小屋、おじいさんの形見、大切な友達からの手紙、財産のすべてを、津波が呑みこみ、愛してやまない海へ持っていかれた。


地震発生から津波発生までのわずかな時間、老婆の息子は、ICUの母を救おうと崩れた我が家を諦め、宮古市の総合病院へ向かおうとする。
しかし、それは困難極まりない状況だった。
地震による瓦礫の散乱で道路が封鎖、車では進めない。近隣の負傷者の救助。そして、なにより息子は、介護する妻を津波から避難させなければならなかったからだ。


話は震災の一年前に遡る。東京に嫁いだ娘、つまり老婆から見た孫の佳子(仮名)と母である息子の妻が長距離電話をしていた時のこと。
母の口調が突然おかしくなったことに佳子が気付いた。ロレツが怪しくなり意味が不明になった。すぐに父親(つまり老婆の息子)と電話を代わってもらい、佳子は母の異変を父に伝えた。
佳子の機転により、父は急いで母を病院に運んだ。
幸運だった。佳子との偶然の電話が、母の一命を取り留めた。


だが、人間の運命はわからない。
一年後におとずれた地震津波で、その「幸運」は、まったく違う方向へと転がり出した・・・。
(つづく)