少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

1692 浄土からの声が聞こえる5

そして魔の14時46分。
佳子の父・拓馬は、半身不随で動けない妻の美和子を必死で、崩れ落ちてくる家財や飛び散るガラスの破片から、覆うようにして守った。
命からがら、メチャクチャになった家から拓馬は美和子を連れ出すことが出来た。しかし、次に拓馬の脳裏を過ぎったのは、市民病院のICUで命と闘う母のことだった。
「すぐに迎えにいかなくちゃ・・・」
拓馬はそう思ったが、未曾有の地震、道路は倒壊した家屋で塞がり、あちらこちらから悲鳴と鳴き声、いたるところで負傷した人々がうずくまっている。
「とにかく高台へ逃げろ、津波が来るぞ・・・」
だれかれともなく、男たちの怒号、
「逃げて〜 はやく逃げて〜」
女たちの声高い叫び声・・・。
本能的に、拓馬は美和子を抱きかかえ、高台へと走った。
しかし、身体がついてこない。走っては止まり、歩いては止まり、また走る。息が切れる。美和子を抱きなおす。また走る。止まる。うずくまる人に声をかける。「とにかく逃げて、高台へ」。また走る。


逃げる最中だった。拓馬の作業着のポケットにあった携帯がなった。
東京に嫁いだ娘の佳子からだった。
「お父ちゃん大丈夫?」
「ああ、いま逃げとるところ」
「母ちゃんは?」
「いっしょにおる」
「婆ちゃんは・・・」
「・・・・まだ、わからん、これから見にいく」
「早く逃げて・・・」
電話はここで切れ、それから3日間、繋がることはなかった。
(つづく)