少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

1706 浄土からの声が聞こえる14

岩手県宮古市浄土ヶ浜、東京に住む佳子が、実家の両親と病院に居るはずの祖母を探しに、毎週末、現地に向かうのだが、寸断された交通網の影響で、跡形もなくなった故郷の実家にようやくの思いで、たどり着いたのは、震災から二か月以上も過ぎた5月の中旬だった。
GWには夫の昌男も休暇を利用し、連泊で妻・佳子と行動を共にしたが、目にしたのは、変わり果てた宮古の町と、崩れた市民病院だった。
そこには、佳子の祖母がICUに居るはずだったが、もう、人の姿はない。飛び散ったガラスの破片と壊れた医療器具、散乱した医療品やひしゃげたベッド、あとは瓦礫と化した、コンクリートの壁や天井だった・・・。


佳子と昌男は可能な限り、避難所を回り、両親と祖母を探した。しかし、手がかりすらつかめなかった。
暗澹(あんたん)たる思い。希望と絶望が毎秒のように交錯する。佳子は何度も泣きそうになり、そして昌男に励まされる。そんな思いを日々繰り返していた。


風薫る5月。生まれ育った故郷が、こんなにも遠いものなのか?
海風のやわらぎは以前とまったく変わらない。残骸と化した、実家を目の当たりにして、佳子は膝から崩れ落ちた。慰めてくれる人はそばにいない。ただただ、ざわめく波の音と、海鳥たちの声だけの世界。世界で一人だけの孤独感は、かつて経験したことのない恐怖に似た虚脱感に、しばらくの間、立ち上がることさえできなかった。


何時間、そこにいたのだろう・・・。その間のこと、いまだに佳子の記憶には残っていない。しかし、テレビで大好きだった海鳥の鳴き声を聞くたびに、あの日の恐怖が蘇ってくるそうだ。
その日も、次の日も、その次の日も、佳子は両親や祖母の手がかりを見つけることはできなかった。
この日を最後に、もうここへ来るのはやめようか・・・佳子はそう思った。希望より絶望が大きくなった瞬間だった。
(つづく)