少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

1773 浄土からの声が聞こえる22

佳子は宮城に入ってから三日目・・・思ったより早く、両親のいる病院を見つけた。
両親は宮城県登米市にいた。「宮城の病院」と父・拓馬から聞いたとき、佳子に登米の風景が思い浮かんだ。そこは、母・美和子の生まれ故郷だったからだ。幼いころ、何度か美和子に連れられて来た記憶がある・・・遠い昔。
比較的、地震の被害の少なかったこの街で、小さな宿を借り、行ける範囲の病院を回った。そして薄暗い廊下の長椅子で、ひとまわりもふたまわりも、いや、実際には半分くらいに小さくなった父を、逆光で、輪郭しか見えなかったが、その背のまるめかたで、佳子は父だと直感した。
佳子は、喜びに震え、駆け寄るのではなく、その小さな影が、本当に変わり果てた父の姿であるのか、確かめるのをためらいながら、ゆっくりと近づいた。
「おとうちゃん・・・・」
佳子は、うつむく長椅子の影に、上から尋ねるような口調でそう言った。
ふいをつかれたかたちの拓馬だが、こうなる時がくることを予測していたかのように、ゆっくりと、垂れた頭(こうべ)を持ちあげた。
「おとうちゃん・・・・」
拓馬の顔を確認した佳子は、10か月ぶりに、ようやく見つけ出した父にすがりつき、泣いた。言葉はなく、ただ泣いた。


ひとしきり泣くと「おかあちゃんもここに居るの・・・」と尋ねた。
両親に何があったのかはわからない。しかし、娘の自分にも、言えない何かがあったことは十分わかる。しかし、そのことは触れずにおこう。父が自身の口から話してくれるまで、聞かずにおこう・・・佳子は登米に向かう車中でそう決めていた。
「おかあちゃんはどこ? おとうちゃん、痩せちゃったね。ごめんね、すぐに来てあげられなくて・・・」
佳子がそう言うと、それまで無表情だった拓馬の眼から、ひと筋の涙が頬をつたった。


「おがな・・・ちょっと、頭が変になっちまってな・・・、おどが、もうちっとばかし、しっかりしてやっどれば・・・」
拓馬はそう言いかけて言葉を詰まらせた。
佳子は、首を振り「おとうちゃん、生きてただけで凄いよ、みんな死んじゃったのに、生きてるだけで、凄いよ・・・」佳子はそう言って、拓馬にすがりついた。


(つづく)