少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

1777 浄土からの声が聞こえる26

美和子のケースを医学的な見地から検証してみるとこうなった。


まずは、不特定多数の見知らぬ人間が長期にわたり生活を強いられた避難所での暮らし、シャワーもなく、糞尿であふれた劣悪のトイレ、半身の不自由な美和子には、それが地獄に感じた。
不潔強迫=潔癖症とも言われている。手の汚れが気になり、手や体などを何度も洗わないと気がすまない。体の汚れが気になるためにシャワーや風呂に何度も入る等の症状(ただし、本人にとって不潔とされるものを触ることが強い苦痛となるため、逆に身体や居室に触れたり清掃することができずに、かえって不衛生な状態に発展する場合もある。手の洗いすぎから手湿疹を発症する場合もある。 患者によっては電車のつり革を触ることが気持ち悪くて手袋をはめて触ったり、お金やカード類も外出して穢れた、汚れたという感覚を持つため帰宅の度に洗う場合もある。
美和子の場合、人の手を借りなければできない排便と排尿に関する精神的恥辱、屈辱感に苛まれ、我慢をすれば、我慢するなと叱られ、また、我慢のしすぎで、膀胱炎、便秘などの内臓疾患になるなど被害が拡大化した。責任感が人一倍強く、他人に迷惑をかけまいとする美和子の真面目な性格が、この場合は顕著に災いした。


確認行為=確認強迫とも言う。外出や就寝の際に、家の鍵やガスの元栓、窓を閉めたか等が気になり、何度も戻ってきては執拗に確認する。電化製品のスイッチを切ったか度を越して気にするなど。 加害恐怖 自分の不注意などによって他人に危害を加える事態を異常に恐れる。例えば、車の運転をしていて、気が付かないうちに人を轢いてしまったのではないかと不安に苛まれて確認に戻るなどの行為。赤ん坊を抱いている女性を見て、突如としてその子供を掴んで投げてしまったり、落としたりするのではないかというような、常軌を逸した行為をするのではないかという恐怖も含まれる。
美和子の場合は、震災後、いたるところで発生した火災の火元が自分の家からではないかという強迫観念にずっと囚われ続けていた。それを確かめに行こうと起き上がろうとするのだが、当然、ひとりで起き上がることができない。拓馬を呼び、自宅に連れ戻せと泣き叫んでは、周囲を混乱させた。いつか警察が、自分を「放火魔」だとして逮捕しに来る・・・と被害妄想も拡大していった。これも美和子の強い責任感から来るものである。



被害恐怖=自分が自分自身に危害を加えること、あるいは自分以外のものによって自分に危害が及ぶことを異常に恐れる。例えば、自分で自分の目を傷つけてしまうのではないかなどの不安に苛まれ、鋭利なものを異常に遠ざけるなど。 自殺恐怖 自分が自殺してしまうのではないかと異常に恐れる。 疾病恐怖 または疾病恐怖症など。自分が重大な病や、いわゆる不治の病などにかかってしまうのではないか、もしくは、かかってしまったのではないかと恐れるもの。HIVウイルスへの感染を心配し、血液などを異常に恐れたりするものも含まれる。
美和子の場合、これが「食」に出た。食することにより排泄排便が伴う。したがって、それを遮断する術を考えた。その点で言えば、精神は異常とは言えない。方法は間違ってはいるが、理にはかなっている。ある時から、美和子は飲食を拒絶し、拓馬をとことん困らせた。拓馬が、まるで赤子をあやすように、流動食を舐めさせ舐めさせて、命を繋いできた。


縁起恐怖 =縁起強迫ともいう。自分が宗教的、もしくは社会的に不道徳な行いをしてしまうのではないか、もしくは、してしまったのではないかと恐れるもの。信仰の対象に対して冒涜的な事を考えたり、言ってしまうのではないかと恐れ、恥や罪悪の意識を持つ。例えば、神社仏閣や教会において不信心な事を考えてしまうのではないか、聖典などを毀損してしまうのではないか、というもの。ある特定の行為を行わないと病気や不幸などの悪い事柄が起きるという強迫観念に苛まれる場合もあり、靴を履く時は右足から、などジンクスのような行動や、○○すると悪いことが起きる、などの観念が極端になっているものも見られる。
美和子の場合、浄土真宗本願寺派の信徒であった。震災当日、実家の鴨居に祭ってある阿弥陀仏の御神水を替え忘れた。だから地震が起きたのだ・・・と美和子は言い張る。だが、実際に美和子が水の入れ替えを忘れた事実があるかどうかはわからない。


不完全恐怖=不完全強迫ともいう。物を秩序だって順序よく並べたり、対称性を保ったり、本人にとってきちんとした位置に収めないと気がすまず、うまくいかないと不安を感じるもの。例えば、家具や机の上にある物が自分の定めた特定の形になっていないと不安になり、これを常に確認したり直そうとする等の症状。物事を進めるにあたって、特定の順序を守らないと不安になり、うまくいかないと最初から何度もやり直したりするものもある。郵便物を出す際のあて先や、書類などに誤りがないかと執拗にとらわれる場合もあるため、結果として確認行為を繰り返す場合もある。
美和子の場合、この項目に関しては顕著な異常は認められなかった。



保存強迫=自分が大切な物を誤って捨ててしまうのではないかという恐れから、不要品を家に貯めこんでしまうもの。本人は不要なものだとわかっている場合が大半のため、自分の行動の矛盾に思い悩む場合がある。
美和子の場合、ある時から、排泄物に異常な執着を持ちだした。そして、それを食べるという行為にまで及んだ。医師によれば、身体の不自由な美和子にできる、数少ない「自殺」の行為であり、そのころより、目を離すことが出来なくなり、拓馬の行動も制限された。救援物資の荷物運びなど、男手が必要だったが拓馬は参加できなくなった。また、食糧や物資の配給にも並べなくなり、生活にも貧した。メディアの報道では「避難民がお互いに助け合い」などと美談ばかりが紹介されているが、現実はそうでないケースもある。美和子の排便による悪臭や、深夜の叫び声など、それが、何日も続くと、それまで親切にしてくれた人々も、次第に離れていってしまい、二人は孤立した。



数唱強迫=不吉な数やこだわりの数があり、その数を避けたり、その回数をくり返したりしてしまう。数字の4は「死」を連想するため、日常生活でこの数字に関連する事柄を避ける、などの行為。 恐怖強迫 ある恐怖あるいはことば、事件のことを口にできない。そのことを口にすると恐ろしいことが起こると思うため口にできない。 この他、些細であったり、つまらない事柄、気にしても仕方の無い事柄を自他共に認める状態にあっても、これにとらわれ(強迫観念)、その苦痛を避けるために生活に支障が出るほど過度に確認や詮索を行う(強迫行為)。
美和子の場合、実はこれが顕著に悪化していた。拓馬が、長い期間、佳子への連絡をためらっていたのは、このことが最大の原因であった。



(つづく)