少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

1783 浄土からの声が聞こえる28

震災から一週間、拓馬は、何度も佳子に連絡を入れようと試みたが、携帯は繋がらなかった。充電器も持たず、電池の切れた携帯ほど、憎らしいものはこの世にないとさえ、拓馬は思った。
そうする一方で、美和子の精神状態は日々悪化する。健常者でも、みな精神になにかしらの異常をきたしている中、身体も言葉も不自由な美和子には無理もないことではあった。
進まぬ救助、追いつかぬ物資、水も食糧も毛布も、すべてが不足していた。
「殺せ  おど  おれを 殺してけろ・・・」
美和子が、そう言い始めたのは震災から十日目。そして、それが口癖となり、目に涙を浮かべ、真剣な表情で拓馬に訴えるようになった。
「んだこっちゃ いうもんじゃなかべえよ みんな苦しいだっちゃ」
「おれは もう嫌じゃ もう嫌じゃ おど 殺してけろ」
「まあすこしいの辛抱だでな・・・」
「おど おれ なして こんなったっちゃ? だれが おれ こんなした?」
「だれっちゅうてもな みんな おなじっちゃ」
「ちがう おれだけ 苦しい みんな 歩けるっちゃね だれがこんなした」
「おでにも わがんね」
「おど だれじゃ おしえてけれ だれが悪い だれが おれに こん悪さした」
「もう寝るべえ 考えてもしょうがないっちゃあ〜」
「寝れるかあ 寝たら 地震で つぶれるっぺや〜 みんな死ねばいいっちゃね〜 死ね死ね死ね み〜んな死ねば いいっぺや〜」
拓馬は、あわてて美和子の口を手で塞いだ。


ゴホン、ゴフォゴフォ、ゲポ・・・美和子が大袈裟に咽(むせ)た。
「死ね みんな死ね」この言葉を発すれば、口を塞いでくれる。おどが殺してくれる。思考回路が正常な美和子の脳は、そう反応してしまった。


それを境に、美和子は「死にたい」から「死ね みんな死ね」という口撃で拓馬を困らせた。「死ね 死ね死ね死ね・・・みんな死んでしまえ・・・」
「おっか なして あんおばちゃん 死ね死ね言ってるっちゃ・・・?」
美和子の周りに、子供たちを寄りつかせないように、避難所の親たちは申し合わせた。
「誰が悪い 誰がおれを こんした おど 答えてけろ おど・・・」
拓馬がノイローゼになるのは時間の問題だった。
(つづく)