3067 永すぎた看護婦
4/14-18
FBFのみなさま、おはようございます。
今朝は病人の好きな曇り空、5:22起床。
28歳、中でも一番明るい看護婦さん。
「チミの元気の源はな〜に?」
「え?あたし、元気に見えますか?」
「いやいや、チミが病人なら、ここの患者は全員死人よ」
「あ〜でも、家に帰ったらグダ〜てしてますよ」
「そりゃ普通だけど、家で何か疲れることでも?」
「まあ、特にではないんですけど、同居人がねぇ〜」
「旦那か?」
「旦那ってわけじゃないんですけど〜」
「そうか、わかった、皆まで言うな」
彼女の言わんとすることは全て分かった。うん、結婚適齢期の女性にとって、これは人生を左右する問題である。真剣に取り組まねば。
「で、何年になる?」
「もう3年が過ぎました。交際期間を入れると6年です」
「そうか、『永すぎた春』と言ったのは三島由紀夫だが、確かに6年は十分に永い、さぞ不安だろうて」
「そうなんですよ」
「で好きおうとるのかね」
「その時代は過ぎましたね〜。今は普通に一緒にいてお互いに普通に暮らしてるって感じです」
「典型的なテレサパターンですな」
「な、なんですかそれ?ビョーキ?」
「というか、一種の催眠術。すなわち、時の流れに身をまかせて、たどり着く先は、よくて愛人、下手打てば、寂れた港町で荒くれ漁師を相手にする赤提灯の女将。しかも昼間は市民病院で働き、乳飲み子を背負って、荒くれ者に酒を注ぎ、独身女の取り合いに巻き込まれ、泣く子をあやしながら、散乱したビール瓶の破片を片付け、ひとり涙する。しかし翌朝8時になれば、子を託児所に預け、何事もなかったように白衣の天使に変身する」
「お願〜い、もうやめて〜」
彼女は耳を塞ぎ、ナースステーションに駆けていった。
昨日の朝のことです。
私の昼食を運んできた件の彼女が聞く。
「安藤さん、今朝の話、あれ本当ですか?」
「私の経験上、まず間違いない」
「今朝は気が動転して逃げちゃったけど、も少し聞かせてもらっていいですか?」
「よかろう、そこへお掛けなさい」
「あ、他のナースの目もあるので、立ったまま聞かせてもらいます」
「では、尋ねよう。親御さんはこのことを?」
「はい、さすがに薄々感じてるみたいです」
「我々の時代、上村一夫先生の『同棲時代』なんて漫画が流行ってね、私が通う安城北朝鮮中学では購読禁止やったんよ。まるで同棲は犯罪扱いやった。そしたらね、映画化されて、由美かおるが脱ぐなんてことになって日本中が大騒ぎやった」
「由美?かおる?ですか?」
「由美とかおるじゃないよ、由美かおるでひとりや」
「はあ?」
「でね、それ聞いただけで柔道部の田籾(たもみ)君なんか、鼻血出して学校中で大騒ぎよ。試合でも鼻血たらさん田籾が由美で血ィ出したってね。で、俺が保健室に連れてったわけ」
「大丈夫だったんですか?」
「それが一向に治まらん。治まらんどころか、今度は股間が我慢たまらんくなって、部活で乱取りするときに、後輩から、『先輩
、ヤリみたいなやつが時々つき刺さって痛かとです』て言われたんやて」
「尖ってたんですね!」
「まあ、中学生やし、まだ使い込んどらんからね」
「で、どうされたんですか?」
「親友やしね。循環教師か風紀委員に見つかれば停学もしくは退学だけど、覚悟して、変装してね、連れてったよ、安城東映、田籾君」
「喜んだでしょ」
「うん、でも彼、我慢でけへんくてズボンの中に手ぇ突っ込んだんが見えたんで『ここではよせ、まぶたに焼き付けろ』て諭したんや」
「安藤さんオトナだったんですね」
「てか、わしは、続同棲時代の高沢順子とか、妹よの秋吉久美子とか、信濃川の時の由美かおるとか、朝焼けのうたの高橋恵子とか、魚影の群れの桃井かおりとか、夜の診察室の松坂慶子とか、ハレンチ学園の児島美ゆきが趣味じゃてからにのぉ」
「安藤さんて、映画評論のお仕事ですか?」
「いえ、セクシー女優専門の評論家ですたい」
「あら、あたしもう行かなくちゃ」
田籾君の話をしたらオンナは消えた。
が、午後の検温で再び来る。
「私の話ですみません。で、どうしたらいいんでしょうか?」
「私はこう見えても婚前同棲の推進委員会。婚前に少なくとも半年、できれば一年のお試し期間を設けて、それで上手くいきそうならGOというのが持論。一緒に住まないとわからないことが多々あるじゃん。例えばイビキ、歯ぎしり、寝屁。特に無意識の屁は臭いという。あれは、もう便が肛門の近くまで下がり、括約筋が緩んで漏れるから糞の匂いとほぼ同じ。あれに耐えられるかどうかが結婚できるかどうかのバロメーター」
「わかります、わかります、ホントその通りです」
「そこはクリアできた?」
「はい、もう3年ですから」
「だよね〜。で、プロポーズのプの字くらいは?」
「それがまったくないんです」
「惰性だな。ケジメがないと子も産めん」
「そうなんです、そうなんです、そこなんです」
「ちなみにチミは何型?」
「ABです」
「彼氏は?」
「Bです」
「まずは、お互いの血液型から変えなさい」
「え〜〜そこですか?」
「そ〜そこなんです!お互いに計画性のない、来た球を打つ、という長嶋さんタイプの天才肌。天才x天才=非常識。幸い、チミにはAがあるので、芝居を打ちなさい。あ、これは別料金で指導しますね。彼はチミと結婚したくないわけじゃなくて、ただ考えるのが面倒くせえタイプね」
「え〜〜そうなんですか?」
「そらね、3年間もうら若き乙女を手込めにして、ほなさいなら、なんて度胸は今時のヤングにはねえさ」
「ですよね〜。もし、ポイされたら絶対に訴えてやる」
「そうや、で慰謝料もろたら、ワシと、富山の氷見港に行ってやな、赤提灯じゃ」
「え、安藤さんと、富山?氷見?なにそれ?それはないそれはない・・・」
そだね〜チャンチャン。実話だぜい。
本日もついてる、感謝してます。