3800 玉川心中、富栄の嘆き
4/12/17
この書は過日のNY行きで読む予定でしたが自宅に置き忘れたため今読みましたが、とても流し読みするものではなく熟読、再読の興有り。
心中相手、太宰治の愛人である山崎富栄の日記が中心だが、日々の短い文章に太宰に対する億万の願いと愛と渇望が描かれている。
これは、すなわち日記。他者に宛てたものではない。
自己完結の証なれど、苦しさが奥底から響いてくる。
売文ではないところに真実があり、羞恥がない。
そして帝大出の人気作家と比較され、美容院のオンナと一般的に蔑まされる根拠は微塵もない文筆表現力。
いくつかのフレーズをメモらせていただいた。
敬虔なるクリスチャン故に不倫に悩み、戦火にて絶大なバックグラウンドと兄姉、数日間の新婚生活の旦那さえも失い、結核で血痰を喉に詰まらせた太宰の口に自らの口を当て吸い取った。
心中後、彼女は太宰に青酸カリを飲ませた、荒縄で絞殺してから入水した、この2つの説がマスコミや文壇により流布された。
しかし、その証拠は何ひとつない。
本書は彼女を弁護すべき側から書かれているが、青酸カリ説、荒縄絞殺説に関しては完全に論破している。
確か、まだ一冊、自宅本棚に山崎富栄の本があるはずだ、読んでみる。
過日も書いたけど、西村何某による「苦役列車」なる芥川賞作品。
読む側が苦役を強いられるような汚文を選考する選考委の品位とはなんぞや、と改めて思う。
堕落しきったセンズリ小僧なら、探さなくともいくらでもいる。
しかし、死と背中合わせ、紙一重の重さで文字一句を自身の血液と引き換えにするような作品とは、偶然にしか出逢えない。これから荷物を取りに一時帰宅が許された。
太宰治武蔵野心中 長篠康一郎 広論社 1982年