少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

4649 横須賀市民病院

7/16/19

FBFの皆さまおはようございます。
連休はいかがでしたか? 私は本日で155連休をいただき痛みさえ伴わななければ快適なホスピタルライフのプロフェッショナルです。
院内でも連休中は医者もナースもヘルパーさんもお休みで、多くの患者も連休前にトンズラーするのでとても静かな雰囲気の中、原稿もはかどり、ゴルフの原稿も仕上げて、担当女史が出社する前に送信完了です。(長文です)

本日、朝から22Gお注射3発いただきました。
血液検査のためですが、最初の2発は、単なるナースの失敗。
「安藤さんの血管取りやすそうですね〜、うわ〜どれにしようかな〜」
と言いつつ、一生懸命探すこと5分弱。
この時点で、入院プロの安藤の眼は「ああ、この子は失敗するな」と予感。
そして的中。

こうなると、ナースは次はなんとしても・・・と自らを追い込み、
緊張が新たな緊張を産み、心の手が震える。
タイガーウッズ以外のゴルファーが、優勝賞金1億のかかった1メートルのパットを外すアレだ。
そこらへんの皆さんなら、1000円の握りでもちびるアレだ。

満塁のランナーで四球が出せない場面。普段ならアウトコースギリギリのストライクゾーンから球一つ分外せることができる投手が、ランナーを背負うとボールゾーンからボール球に変化球を投げるアレだ。年俸は億には届かない。江川さんと尾花さんは1000イニング投げて押し出し四球が一度もない。キャッチャーが甲斐さんなら、どんなフォークでも受けてくれる。

ナースはさらに5分かけ、慎重に血管を探す。
「痛くなかったですか?」
なんちゅう質問か?きっと脳もパニックなのだろう。
プロの回答はこうだ。
「うん、まあ、それなりに」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
ここは冗談でリラックスさせるも、沈黙で見守るのもタブーである。
やることはただひとつ。
「次は上手く行きますように。彼女の緊張がほぐれますように。彼女と彼女の家族が幸せでありますように」とひたすら心中祈るだけである。
だけど、大概の場合、結果は見えている。

そして案の定。
「ごめんなさい、次のナース呼んできます」
彼女は半ベソで小走りに出てゆく。
もう、こんな光景、マジで何十回も見てきた。
お世話になっている多少の恩返しとして、数秒後には消える痛みは彼女たちの経験として生きればよい。それが入院プロ。

「安藤さん、ごめんなさい、あたしがやらせていただきます」
先輩ナースが来た。
この子は基地のある座間出身、オスプレイの騒音には慣れたと言うが、最近ではナースの仕事に疑問を持ち始めた。
子供の頃からの憧れの「白衣の天使」。高校も看護学校。そして短大は口腔外科のある横須賀を選んだ。座間から横須賀とくれば国防軍かと思いきや、それは全く関係ない。
宗教病院に来て、ちょうど一年が経つが、その前は横須賀市民病院に3年間勤務していたと言う。

横須賀市民病院!わし、その病院知っとるよ。
「え、マジですか?」
5年前、たった一度きりだが、深夜、カーナビを頼りにアップダウンの激しい細道を獣道を四苦してたどり着いた。名前とは裏腹な昭和レトロな病院。裏にある有料駐車場に車を止め、老母を連れて訪ねた。夜間入口から門番に面会札をもらい、エレベーターで上がりナースステーション。売店はすでに閉店で自販機で温い缶コーシーを買った。入口からエレベータ、つぎはぎの渡り廊下と真っ暗な中庭、カビ臭いナースステーション、狭い湿ったコンクリの老化とシミだらけの低い天井。入院のプロだから、一度見ただけでその形状はすべて記憶している。

横須賀ナースに言わせれば「まるでそこに住んでたみたいです。本当にその通りです。びっくりです」と腰を抜かす(実際には腰を抜かしていませんが)

「よくそんなところに3年間もいたね。よく頑張ったと思うよ」
そう言うと、彼女の目が少し潤んだ(ように見えた)。
転職した理由は書類整理とかの雑用がやたら多く、患者ケアという、本来のナースの仕事より、まさかの会計とか事務員の仕事までさせられたという、ローカル病院あるあるだった。

「安藤さん、本当にごめんなさい、彼女、初めてじゃないのに緊張しちゃって」
「え? こんなオサーンに?」
「?」
「もしも、俺の勘違いじゃなければ、彼女に伝えといて。歳の差がありすぎる。それに俺はカトちゃんみたいに資産家じゃない。大衆部屋に生息する下級老人だと」
「あ、はい。カトちゃんてお友達か誰かですか?」
「お友達ではないが、知り合いでもない」
「そうなんですね〜、伝えておきます」
横須賀市民病院ナースは恋心も緊張もなく一発で血管を仕留めた。

実は横須賀市民病院まで安城から老母を乗せて走った。カーナビがなければその日のうちには辿り着かなかだろう。入院中の従姉妹の容態急変の報を受け、昼食を摂ると運転中に眠くなるのでガムを多めに買い込み、東名を走った。

山あり渋滞ありで、横須賀に辿り着いたのは、面会時間外だったから、おそらく夜10時。寒い夜だった。ナースステーションで問い合わせると「その方は、すでに退院されましたという」。
そう私に告げたナースこそが、今ここで私の血管を取った件の横須賀ナースだったのだ。
(これは池井戸潤だとそうなるという話で実話ではない)

私は母と顔を見合わせた。
「あのう〜、退院したって言われても、かなり状態が悪かったはずなんですが、転院ということですか?」
「いえ、退院です」
「親戚の者ですが、どのような状態で退院されたのか教えていただけませんでしょうか?」
「すみませんが、規則で退院されたとしかお伝えできません」
事務的な対応だった。

これまで何度も。
中二の時、学校帰りに自転車で駆けつけた安城市安城厚生病院、母方の祖母。父危篤で国電名古屋駅からタクシーで向かった中京病院。横浜たそがれ病院を退院したその足で青山の叔母を見舞いに行った世田谷区の有隣病院。そして、その日の横須賀市民病院。これで4度目か。慣れてはいるが、生きた状態で退院できたことを無理やり想像する。だが、すべて叶わず。

その日は遅く虚しい夕食を藤沢のデニーズでとった。馴染みない街、駐車場つきの深夜営業はここしかない。デニーズなら安城にもある。せっかくの藤沢だ、ラーメンでもいい、安城にないものを求めたが、世相は何処も金太郎飴、外食はマニュアルオンリーのチェーンしか生き残れない殺伐に合理化の悲劇を嘆く。ネットで予約したのは藤沢の法華クラブ。宿泊料金の安い順に電話を入れ、ヒットしたのが選択理由。支払いは母親のカードで済ませた。

翌日、従姉妹の借家(一軒家)に行った。鵠沼海岸駅の脇、線路沿い。忘れ物をしたら、ひょいって策の外から放ればホームに届く。汽車が来てから玄関を出てもお釣りがくる最高の立地。家は古いが、実に綺麗に整理整頓されていた。そこに4人の娘と孫ひとり、長女は結婚して家を出ているが、次女がシングルマザーで孫はその子だ。一番下の子はまだ高校生。従姉妹は50歳だった。

いつぞや、骨董屋時代、相模原の伊勢丹での催事の時に手伝いにきてもらった。手渡したバイト代で僕の商品を買うというので、それは無料であげた。
その時の商品が、鵠沼海岸の家の居間にちょっとした店のガラスのショーケースの中に綺麗に飾られているのを見て、こんなに大切にしてくれてるなら、店にあるやつ、全部あげればよかったと思った。彼女のお気に入りはアメキャラのアンとアンディだった。
今朝は局所麻酔『運命論者』の二部を書く予定だった。
パソコンを打ち始めた数秒後に、件の針事件。
「それ何ゲージ?」
「21です」
「おっ局所麻酔と同じゲージじゃん、ちょっと見せて」
という会話がきっかけだった。
ゲージとは針の太さを測る単位で、鉄道や裁縫の用語としても使われる。
思ったほど太くない。
2本失敗、そして3本目で開通。

そうだ、写真撮ってFBに載せよう。
ナースが朝食を運んできたついでに「写真撮りたいので、さっきの針貸して」と依頼。
「すみません、それがちょっとできないんですよ」
「は?な〜んでか? ちょうだい、じゃないよ、撮影用に一瞬、貸してちょうだい、ダヨ」
「安藤さん、本当にすみません、それがダメなんですよ」
「だから、どうして?」

「実は、さっきの安藤さんのが最後の一本だったんですよ」
「??????まさか????」
「いえ、本当なんです」
「あの子、他でも失敗しまくってんの?」
「いや、実は、あの子だけじゃなくて、今日はあたしも違う患者さんのところで・・・」

う〜む、正直でヨロシ。
ということで、新しいヤツが資材部から来たところを借りました。

本日もついてる  感謝してます

f:id:chamy-bonny:20190718174022j:imagef:id:chamy-bonny:20190718174034j:image

f:id:chamy-bonny:20190718174043j:imagef:id:chamy-bonny:20190718174052j:image