5788 奇跡の波動8
3/22/19
第一章 繋がった命の電波 その二
・移植費用の行方(2)
日本にいるスタッフの杉浦から一報が入った。小田原で夫人が銀行から費用の引き出しを完了した、と。同時に、それを中国に届けてくれる今村の友人の在日中国人と連絡がとれた。この二人がどこかで落ち合い費用を受け渡し、その中国人の友人が18:30発のJAL便に搭乗できさえすれば、なんとか今日中に費用は中国のR病院に届くことになる。出航まで残り二時間とちょっと。どんなに逆算しても東京駅発16:29の成田エクスプレスに乗らなくては間に合わない。航空券はキャンセル料発生覚悟で杉浦が一席押さえた。と、いう内容の報告であった。
まさに奇跡と奇跡の綱渡り。落ちたら絶対に助からないという断崖絶壁にロープを張り、命綱なしで強風の中をを渡る曲芸師の無謀な映像を、いつか見たテレビの画面に思い浮かべていた。そして、バカげた行為に対する呆れた感情で上から目線で見ながら、逆にハラハラと心配する一方でアクシデントが起こり谷底に真っ逆さまにという不謹慎な期待を込め他人の不幸をワクワクと秘かに待つ自分を感じていた。しかし今、立場が逆転して、曲芸師の緊張感、集中力に、ほんの僅かかもしれないが、触れたような心境に陥った。