574 どうなる「G」?9
翌3月8日火曜日。99%撤退を固めた我々に不意な希望が届く。
件の大家の秘書から「向こう3カ月に限定して、あなたたちの値下げ要求に応じる」という回答がきた。
なんとも中途半端な回答。嬉しいのか嬉しくないのかよくわからない。
「なんだよ、10万元でもいいのかよ。だったらもともとの19万8000元という数字はいったいどこからきたのだ」
僕とS店長は「感謝」より、むしろ「怒り」を感じた。
中国、特に上海をはじめとする大都市の店舗などの家賃のカラクリは、複雑だ。いや、逆に言えば実に単純だ。又貸しを繰り返すため、もともとの家賃が実に不透明なのだ。もともとの家賃プラス、中に入った人間がそれぞれに自分の取り分を上乗せして、最終的な金額が確定する。実に不愉快極まりないシステムである。相手の顔色、足元を見て値段を決める。
「10万元(130万円)でいいなら、じゃあいったい基の家賃はいくらなんだよ、7万元か?8万元(100万円)か?」と僕が投げかけると「たぶん3万元(40万円)くらいだと思います」とS店長が寂しく言った。
もう撲は何も答えられない。本当に酷い話だ。
さらに「K」は上海でかなり高額のコンサルタント会社と年間契約を結んでいる。毎月30万円で3年間、すでに1000万円超を先に書いた1億6000万円とは別会計から支払っている。
数日前、そのコンサル会社の若い衆に来てもらい、会社を閉めるための手続きと必要な費用の見積もりを教えて欲しいと依頼した。店を継続する道を探しながら、一方で閉店の事務手続きの準備も始めなければならない状況に来ている。
やってきたのは30歳そこそこの日本人男性コンサルタントだった。会うのは2度目だ。
ここから先は怒り心頭の話になる。とにかく話をする態度が超生意気。上から目線で人を見下した話方をする。少なくとも、僕も同席したS店長も彼よりうんと年上だ。体育会系出身の僕としては、最初からあまりいい印象を持っていなかった。会談の中で少なく見積もっても3回は顔面にパンチを見舞ってもいいシーンがあった。
思いだすのも腹立たしいので多くは書かないが、決定的だったのは彼の捨てゼリフ。「ウチが契約しているのは、あくまで東京の親会社であって、あなたたちの上海の子会社じゃないんです。店の運営に関して何の決定権もない安藤さんやSさんと話をしてもまったく意味がないでしょう。ウチはあなたたちと何の契約も結んでいないのですから。そういう話は東京の本社の社長か会長と直接、話をしますので、ここではお話いたしません、無駄ですから」
「おいおい、それはないでしょう。少なくともS店長は東京本社の直属の社員であり上海店の社長。それにそもそもそちらのコンサル会社と我々の東京本社が契約したのは、あくまで上海店のためだけのもの。それに僕もS店長も会長から直々に、この店の運営を任されている。つまり進退の決定権は僕らに委ねられている。ここは東京とか上海とか、親会社とか子会社とかじゃなく、同じ会社の社員なんだから、教えてくれてもいいんじゃないですか」僕は少し感情的になりかけていたかも知れないが、極めて冷静に話してみた。
(つづく)