2943 東京中日ブルース2
12/30-17
2017年末、古き良きトーチュウ時代2。
九州の国立大出の酒豪、酒とペンに活きる文士、陸上界の大御所。
とにかく酒を呑むか、文を描くか。
前歯が無いのは、酒の上での喧嘩だろう、詮索するまでもない。
我が直接の師匠である。
すべての発想がエリートにはない逆説。そして熱い。
スポーツに対する情熱は、文章の一言一句を生き物として扱う物書き。
問題は酒である。
「安ちゃん行くよ」の合図で社を出る。物腰は柔らかい、ある瞬間までは。
私ひとりでは無粋なので、というか、後始末要員として後輩のK山を連れて行く。
彼は二番弟子。
今では立派なゴルフ業界誌の大社長で6年前から、縁故で執筆させてもらっている。
可愛がってあげてて良かった。
さて問題はM薗さんだ。とにかく酒を呑む。
講釈を垂れては酒を呑む。これでもかと酒を呑む。また講釈を垂れては呑む。
面白すぎる講釈と社会論、スポーツエピソード。そして原稿の評価も必ずくれる。
やがて朝が白む。お店も看板の時刻だ。
そしてM薗さんは、さんざ飲み食いした後に必ずこういう。
「ところで、カネは無い」
たったひとこと。
だいたい、カウンターの小さな店。ママさん一人で切り盛り。
私とK山はこの店がM薗さんの馴染みかと思わせる雰囲気に違和感なく呑む。
が、大概は、初めて踏み入れる未開の店。
私もK山も一気に酔いが覚める。
M薗さんはポケットからヨレヨレの名刺を一枚出し、ポーンとカウンターに叩きつける。
「ツケだ、月末に社に取りに来い」
命令形だ。
一限客にさんざ飲み食いされて、挙句は啖呵まで切られ、普通ならまず110番だが、まずそうはならない。
一緒に盃する、いつの間にかママさんもM薗ファンになり、心を許す、身体は知らんが。
そんなパターンがしょっちゅうだった。
ところがたまに失敗する。
帰り際に、M薗さんがママからカウンターの隅に呼ばれヒソヒソ話になる。
「安ちゃん、K山、ちょっとこっちおいで」と優しく呼ばれる。行くと「いいから黙って有り金出せ、財布を見せろ」と凄まれる。
当時の私の給料は額面で15万円、税金引かれて13.5万円。
とてもやれる(生活できる)額ではない。随分とサラ金の世話になった時代。有り金で足りないと「時計をはずせ、ベルトも置いてけ」と来る。
それでも私とK山は彼の誘いを断らなかった。
つづく