少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

321  意気消沈3

Mちゃんが引き揚げるのと入れ替えに、今、僕がプライベートな問題で相談に乗ってもらっているYちゃんと、その彼氏のFさんが「近くまで来たので」とわざわざ立ち寄ってくれた。こちらの一方的な相談なのに心配して来てくれた。「花とか果物とか買う時間がなくて」と院内の売店で買ったクッキーとグリコのバタープリッツ、4本の缶コーヒーが入ったビニル袋を渡された。こんな素朴な見舞いは、かえってグッと心にくる。
この両人は近々結婚する。一本のジュースを二人で回し飲みしていた。僕の眼には毒だが、是非、幸せになってもらいたい、心からそう思う。
1時間ほど彼らと話した。少しもやもやが落ち着いた。
外は小雨。「タクシー呼ぼうか?」と僕が言うと「これからお金が必要だから倹約しなきゃ。バスで帰ります」とYちゃん。タクシーなら500円。バスなら二人で50円。偉いな〜と思えば思うほど、それは己の愚かさとのギャップだと知り、また意気が消沈する。
16階の病室に戻ると、何故か拾得さんが、部屋の隅に椅子を置き、壁にもたれるようにして缶ビールをくゆらしていた。
「メシ、行きますか?」僕が言う。
「そうですね、ぼちぼち腹も減ったし・・・」
小雨の5時少し前・・・。
僕は朝から何も食べていない。さして腹も減っていない。意気が消沈しているからだろう。
病院を出て、道を渡ると8畳間ほどのスペースの店が20〜30軒ほど軒先を連ねている。雑貨屋、飲食店、赤ちゃん用品、花屋、果物屋などさまざまな店が軒先を連ねる。僕はパジャマのまま外出。
手始めに、まだ出来たばかりの羊肉の串焼き屋に入る。頭に包帯を巻いた30代前半の美人女将に羊肉串焼き10本を注文する。包帯の理由はあえて聞かない。僕らが来るまで無人だった店内で彼女は中国語の讃美歌の印刷物を眺めていた。彼女はそれをテーブルの上に置き、カウンター越しのキッチンに入った。拾得さんは青島ビール大瓶をふにゃふにゃのビニルカップに注いで飲む。僕は我慢する。自分が偉いなと思う。
次、知人の夫妻が経営する食料品店に行く。旦那さんは日本人、奥さんは中国人、働き者のご夫婦だ。
そこで僕は中国製の日清チキンラーメンを発見。「おおこれが食べたい。作ってくれますか?」「もちろんいいですよ」
狭い店内に折りたたみテーブルと椅子を出し座る。拾得さんは、今度は冷蔵庫からハルビンビールの大瓶を取り出す。インスタントラーメン一袋、ビール一本、しめて100円にも満たない売上のため、奥さんは拾得さんのつまみにと、売り物の落花生の袋を開け、やはり売り物の魚肉ソーセージまで切って出してくれた。ただでさえ、正々堂々たる営業妨害。泥棒に追い銭とはまさにこのことだろう。
やがて小雨の中、商品の配達から痩せた旦那さんが帰ってくる。「ああ安藤さん、こんにちは、その格好はもしかして・・・」と僕の入院に気を使ってくれる。しばしの歓談後「すみません、またちょっと配達が入っちゃったもんで。すぐ戻りますから、ゆっくりしていってください」とビールの箱をバイクに積む。
「しかし30元(約500円)以上の買い物で配達無料・・・って凄いですね・・・」と僕。
「いやいや他は15元以上で無料配達してる店もありますから、うちなんてたいしたことないですよ」と細身亭主。
なんという凄いところなんだここは・・・。
実はこの亭主、語学の達人で中国語、韓国語、たぶんアジア何か国かの言葉を操れる。元日本語教師で、今ここで僕にラーメンを作ってくれた中国人女性が元生徒。奥さんは彼の倍くらいの体格だ。
あんな才能ある人が30元の売り上げで小雨の中の配達?未だ解明できない謎のひとつである。でも二人はいつ見ても本当に幸せそうだ。中学生の息子もよく店で手伝いをしている。
僕がふらり店にいくと「あの〜これどうぞ」などと自分の食べていたお菓子を分けてくれたりする。この店に来ると得体の知れない温かみを感じる。僕は洗剤とカップ麺をいくつか買った。締めて29元。配達してもらうには1元足りなかった。(つづく)