322 意気消沈4
シリーズ第4弾・・・って本当に意気消沈ですか?
はい、がっつり落ち込んでいます。
善人の見本のような夫婦の店を後にした僕と拾得さんは、さらにぶらりした。
「何食べましょうか?」
「なんか、マーボー豆腐ですかね」
一軒目、マーボー豆腐なし。一旦席に着いたけど、却下して二軒目。
テーブル4つ、僕の病室の5分の1くらいの店。あるにはあった。だからオーダーした。もう一品は鶏肉のカレー炒め定食。拾得さんは冷蔵庫から、また青島ビールの大瓶を出した。
「豆腐そのものは悪くないけど、次に来た時はオーダーしなくてもいい程度の出来だな」と拾得さんはいいながら青島をすすった。
僕らはまたぶらりした。とはいえ病院からわずか数十メートルの距離、100メートルは離れていない。歩くのがきついのだ。
同じ軒先を病院方向へ戻った。拾得さんは好物の鳩の丸焼きと、僕の好きな鵜骨鶏(ウコッケイ)の塩茹でを「部屋で食いましょうか」と途中で購入した。そして「ちょっと酒買ってきますわ、何にしようかな」と善人商店に小走った。
病室で酒盛りがはじまった。
「それ何という酒ですか、メチルアルコールの匂いがしますけど」
「日本でいう米焼酎ですわ。紅米って書いてあるから古代米を使ってるみたいですけど」
「何度?」
「う〜ん、28℃って書いてあるな。生じゃキツイから水で割るんです」
「そら、そうでしょうね。でも消毒液の匂いしませんか?」
「メチルも多少入っているかもね。昔は現地の人はみんなこれ飲んでたけど、今は料理にしか使わないのかな。う〜ん、絶品、この鳩も鵜骨鶏も絶品ですわ。日本でこれ(鵜骨鶏)二人で食べた時1万円とられたもんな〜」グルメさんである。
「拾得さんは、どうしてそんなに酒を飲むんですか?」
「う〜ん、やっぱ気分が沈むからでしょうか。酒で少し血管を広げて血の巡りをよくしてやらんといかんのです」
「なるほど・・・」
やがて看護婦が僕の夜の点滴を運んでくる。2本か。隣のベッドで拾得さんが、いびきをたてはじめる。8時少し過ぎ。僕は意気消沈日記を綴る。あ〜つまらん。虚しい。心細い・・・。
深夜11時、点滴終了。隣のベッドのイビキがむくむくと起き上る。また紅米酒をやりはじめる。午前1時過ぎまで、寂しい男たち二人は廃れ行く骨董業界談議に静かにため息をつくのです。(了)