584 上海日和8
この2カ月間、予期せずして上海サラリーマンランチ事情を現場で垣間見る機会を得ることができた。その結果、わかったことの第一位は、彼らにとって、食事は必ず摂るが内容はどうでもいいということ。それは「彼ら」という主語を「自分」に置き換えても、同じということにふと気づく瞬間でもあった。
「G」の弁当をオフィスビル内で訪問販売してる時に、ある日本人駐在員にこう言われた。
「我々、日本人はオフィスで弁当を食べることに何の抵抗もないんですが、中国人従業員からは白い眼で見られるんですよ。つまり、中国人ビジネスマンにとって、きちんとした食事を摂ることも仕事の一環で、事務所内で弁当を食べるという行為は、仕事のできない人間、あるいは仕事をしない人というイメージにつながるんですよ」
ふ〜ん、そんなもんか〜。ワシらスポ根世代は3分メシ1分グソで4時間睡眠のモーレツ社員がエリートだと叩きこまれたが、時代が変わったということか?東京中日スポーツ1年目の時、入社して2カ月目に初めて休みを取った前日、「ほ〜お前、偉くなったな。明日、休みか〜。お前いつから重役になったんだ?俺の時は、年間で休みが5日しかなかったけど、いいな、今の若い奴らは・・・。そのままず〜と休んでれば、もう会社来なくていいし」なんてバカな皮肉を言うバカがいたけど、今ならパワハラでお前が会社に来られなくなるだろうな。
とまあ、話は脱線しましたが、中国人ビジネスマンは昼食も仕事の一環ということでで、飲食店経営者としては有難いことです。
そんなわけで、昼食にまったく無関心の駐在員諸君の何人かは、本日のメニューが何かを確認することもなく、オートマチックに「日替わり定食」のひと言だけ発して、あとは店に置いてあるフリ―ペーパーに目を通し、料理が出るまで時間を潰すというパターンがほとんどで、昨日のランチが何であったかなど、思いだす作業も必要なく、また興味も全くない。つまりどーでもいいことなのです。
その多くは、やはりオイらと同じスポ根世代の50代。日ノ丸弁当もしくは塩ムスビだけで凌いできた者たちにとって、昼のご馳走は人生に楽しみのひとつであるはずなのに、そんな余裕もない悲しき世代。
閉店から3日目のきょう、僕は堂々と店の前に立ち、N料理長が入れてくれたコーヒーをすすりながら、ヒューマンウオッチングをした。レストラン「G」の閉店に関心を寄せる衆はもうほとんどいない。
「あれっ?きょうからお休みだって・・・」というのが一組。
「あれっ?きのうはやってたのに・・・閉店?」というトンチンカンが一組。「きみきみ、きのうはやっていないんだよ」と肩でも叩いてやろうか・・・。まあ、無関心よりマシか、許してあげよう。
「G、閉店だってよ、ガハハハハ〜」何故か大声えで笑う集団にも腹を立てる気にはならない。何故なら「他人の不幸は蜜の味」とはマスコミ用語だが、核心に近いからだ。「G」の閉店を笑っている奴らはまだ平和でいい。津波と原発事故で日本人の半分はもうすでに笑えない。そして全員が笑えなくなる日がくることが、時間の問題だということにまだ気付いていない幸せを、偉そうな顔をして暖かく見守ってあげよう。