少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

245  富山の置き薬

富山の置き薬。深夜の腹痛や急な発熱。困った時に頼りになるのが富山の置き薬。しかも使った分だけ後払いなので、薬を買い置きする必要がない。外交さんが定期的に訪問してくれ、新しい薬を随時補充してくれる。こんな便利なシステムは恐らく地球上では日本だけだろう。ありがとう、富山の置き薬・・・と僕は思っている。
ところが、この富山の置き薬という、日本独特の文化ともいうべきシステムだが、マツモトキヨシらの台頭で、絶滅の一途をたどっているそうだ。
詐欺やインチキな訪問セールスが蔓延しているため、置き薬の外交員がピンポ〜ンしても、容易にドアを開けてくれない。文字通りの門前払いというやつだ。特に都会はマンションが多く、管理人付きのマンションでは、中に入ることさえ許されない。「一切のセールスお断り」の貼り紙がいたる入口に張り巡らされている。
数年前になるが、一軒家の我が家のドアを、飛び込みの置き薬の外交員が申し訳なさそうにノックした。「あの〜置き薬の会社も者なんですが、よろしかったら、当社の薬を置かせていただけないでしょうか?」
安城に住んでいた子供のころ、やはり富山の置き薬の外交員が訪ねてきた。その外交員のおじさんは大きな風呂敷をクビに巻きつけてきて、どっこいしょと風呂敷を置くと、その中から「赤玉腹薬」やら「熊の胃」やらを取り出して古いものと交換していったのを、僕は玄関の柱の陰から覗いていたのを覚えている。
時代は代わり、現在の外交員はスーツ姿にアタッシュケースだった。
「実は大変に申し訳けないのですが、ウチにはすでに富山堂薬品という置き薬屋さんが入っていて、十分間に合っているのですが、それでも構わないとおっしゃるなら、置いてもらう分には構わないですよ。でもたぶん使わないと思いますが」と僕はそう答えた。
外交員さんは30代の好青年で「置いていただけるだけで本当にうれしいです。薬は使うことが前提ではなく、本来は使うことがなく、健康であられる方が一番望ましいのですが、病気はいつ来るかわかりません。そんな時にお役に立つことができれば、製造者を含め、自分たちの仕事の意義が生じるのです・・・」と。
彼の対応がとても気に入った。横浜のマエダ薬品のM浦さんという外交さんだ。薬はすべて富山のもので、富山堂のゴージャスな木箱に比べるとマエダ薬品さんは頼りないビニルのパックに入っている。それでも僕は置いてもらうことにした。
M浦さんは年に2〜3度のペースで訪ねてくれる。置き薬を置いてくれる家庭は悲しくなるほど激減りしているとため息をつく。
僕など、置き薬を置くことは国民の義務でどの家庭にも必ずあるものだとばかり思っていた。「せめて10人にひとりでいいですから安藤さんみたいに思ってくれる人がいれば・・・」と富山堂の外交さんに言われたことがあるが、どうやらこの業界でも僕は少数派のようだ。
かくして僕はマツモトキヨシで薬は買わない。マツモトキヨシに行くと目的の薬以外の余計なものをついつい買ってしまうからだ。置き薬にお世話になるとしても、胃腸薬と風邪薬くらいで年間2〜3箱程度。なんだか逆に申し訳ないのだが、それでも外交さんが交換に来てくれる。昨7月1日もM浦さんが、やってきた。
あまりにも不景気で転職を考えているそうだが、それもなかなか踏み切れないという。いずこも同じです、頑張ってください。
「高額な置き薬より、ドンキかマツキヨの安い薬で十分」と家の人は言いますが、薬の値段なんて、原価はみな同じ。有名な薬ほど莫大なCM代が上乗せされ、その上乗せ分を消費者が支払っているにすぎず、ウハウハしているのはCMに起用されたタレントと電通博報堂のみ。だったらコツコツと頑張っている名も無い富山の薬屋さんを応援したい。薬だってちゃんと効く。
ネットと価格破壊に日本の伝統文化、そして人情や労働の汗まで消させてなるものか。