250 ありがとう仮面ライダー
仮面ライダーの変身グッズが見事に変身した・・・というお話し。
午前中、各種支払いを済ませると、京王線笹塚駅で元海軍の五十嵐隊長と落ち合った。集合時間は1310。僕たちは駅前の古本屋の中に増設された「290円カレー」(五十嵐隊長は大盛り60円プラス)をオーダー。彼は軍隊生活が長かったので大盛りカレーを40秒弱で完食すると、早く煙草が吸いたい、と僕を急かす。「煙草代も値上がるのでそろそろ止めれば」と僕が言うと「煙草止めると食欲が増すから」と90キロ超の巨体を揺すった。かく言う僕も負けず90キロ超の巨体ゆえ、290円カレーの店主が椅子が壊れるのではないかと、はらはらする眼つきで我々の食いっぷりを観察していた。
ちょっと前までは「さくら水産」の500円ランチに感激していた僕ですが、最近では280円弁当に、きょうはきょうで290円カレー。ああ、この俺はいったい何のためにこの世に生を受けたのだろう、と50歳のデブ2人が狭いカウンターでぶつかりながらカレーをすする後ろ姿を、もうひとりの自分が見つめていた。
河岸を隣のエクシオールカフェに移し、五十嵐隊長が「カフェラテ」なるしゃれた飲み物をオーダー。「じゃあワシもそれで」と同じものをご相伴にあずかる。一番奥の喫煙席に巨体を押し込むと、隣の席で英語の勉強をしている男子学生が露骨に迷惑そうな顔をする。でもそんなのカンケーねえとばかりに「あ〜どっかに就職しねえとマジやべ〜」と五十嵐隊長はこれまで500回以上聞いたセリフをきょうも口にした。
そんな五十嵐隊長が「安ちゃんにいいものあげる」とヘビ革の財布から取り出したのは一万と五千円。
「えっ、何これ?くれるの〜?」
「そう、あげるの」
「なに、それ?」と僕。
実はあの仮面ライダーが「現金」に変身したのだ。あの仮面ライダーとはTOKYO変人録(NO 231 6/27掲載)に登場した、あの着ぐるみの仮面ライダーのことだ。中国から帰ると僕の家の前にビニルの袋に入れられたまま数日間も放置されていた、あの仮面ライダーだ。僕が、哀川翔のゼブラーマンよろしく、その着ぐるみをまとい、仮面ライダーに変身して自宅の風呂場に潜入すると入浴中の小4女児に「怖いよ〜」と大泣きされた、あの仮面ライダーだ。正義の味方に「怖いよ〜」とはナニゴトだ、と僕は心の中で憤慨したが、確かによく考えたら夜の入浴中にそんなものが侵入してきたら驚くのも無理はない。
後日、五十嵐隊長に着ぐるみを見せたところ「安ちゃんこれもしかしたら売れるかも知れんよ」という。「仮面ライダーのソフビなら高額取引したことはあるが、こんなドンキまがいのもんはさすがに売れんだろう」と僕は答えた。
それでも五十嵐隊長は「じゃあ1万円でもいい?売れたら5000円ずつということで・・・」と。「そんなにもらえたら嬉しいよ。肉入りのすき焼きでも食っちゃるか〜」とまったく期待もせずに笑いながら僕。
その仮面ライダーが、なんと4万円で売れました。
実は五十嵐隊長、日本を代表するGIジョーのディーラーで昨11日、投票日に行われたトイショーに出店した。主力選手はレアなGIジョーだが、ダメモトで持って行った仮面ライダーにさっそく業者から「3万なら即買います」と値段がついたという。強気になった隊長は5万円の値をつけたところ、最終的に4万円で売れた。で、「売れたのはこいつだけで、GIジョーは全滅」という隊長だが「とりあえずこいつのお陰で救われた」とも。
4万円から出店料1万円を差し引いて3万円を山分けした「15000円」をくれたというわけです。人間、半世紀も生きているとたまにはいいこともある。もし、僕の家の前に置かれていなければ、間違いなく「気持ち悪〜い」とか言われて、粗大ごみになっていたことでしょう。なんせ正義の味方とはいえ、仮面ライダーはもともとバッタのオバケですからね。知らない人が見れば4年生のように「怖〜いよ〜」となるでしょうから。
これが千差万別の人間の価値観。いらない人にはいらない、いる人にはいる。どうだ、まいったかトヨジ。