少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

761 ささやかな幸せ2

新横浜までの汽車賃はバカにならない。だから僕は昼食を倹約する。
「霊波之光」教会の道を隔てた対面にJRAの場外馬券売り場がある。そこのギャンブル狂たち目当てに露店の弁当屋が出るのだが、午後1時になると500円の弁当がいきなり半額の250円になるので、僕はそれを狙って時間調整をして買いに行く。競馬野郎たちも、昼メシ代を浮かして馬券に注ぎ込もうという魂胆なので、1時に照準を合わせてゲットに来る。ここは馬ではなく人間同士の競争だ。しかし、僕はすんなりゲットして本日もそれで昼食を凌いだ。
午後3時過ぎ、帰ろうとすると、珍しくまだ、弁当が売れ残っていた。
僕の中で激しい葛藤が渦巻いた。「買うべきか買わざるべきか」
今夜の夕食としては理想的だが、ここから自宅まで約2時間の道程。僕は自尊心が強いので1個250円の半額弁当をぶら下げて帰ることに、いささかの戸惑いがあった。「う〜ん、どうしようか」。腕組みまでして考えたが、僕にはマル秘作戦があったので苦渋の決断で250円弁当を断念した。
苦渋のマル秘作戦とは、渋谷駅のバスターミナルのすぐ前にある「はなまるうどん」のことだ。無類の日本蕎麦好きの僕は、滅多なことではライバルのうどんには手を出さない。うどんを食べるスペースが胃にあるなら蕎麦を選ぶというのが僕のポリシーである。しかし、先日、入ってみて感動し、本日も行くことに決断した。
以前にも行ったことがあるので美味しいことは知っていた。しかし、ここ渋谷駅前の「はなまるうどん」は他店と少し様子が違っていた。
セルフサービスの流れ作業だが、僕が注文したのは「かけうどん」の小(100円)とセルフ天丼用の「ライス」(100円)と「かき揚げ」(150円)の合計350円だ。
この店はうどんのツユもセルフで入れる。そしてライスの上に自分でかき揚げを乗せ、天つゆをかけ、これでかき揚げ丼の出来上がりだ。
本題はここからだが、これに青ネギ、天かす、白ごま、赤とんがらし、しょうが、などが入れ放題なのだ。今日日(きょうび)天かすを袋に入れてスーパーなどで売っているが「かす」を売るとは言語道断だと僕は思っているし、天かすを入れただけで、値段を上乗せする「たぬき」系の蕎麦、及びうどんは「詐欺」に等しいとさえ思っている。
このはなまるうどんのように「天かすはご自由に」というのが日本人として正しい商売のやり方だ、と思っている。
ただ僕は、カロリーの関係で天かすは一切入れない。その代わり、無類のネギとごま好きの僕は、青ネギと白ごまをうどんと同じ量だけどんぶりにぶち込む。だから僕のどんぶりはネギ色になる。店にとっては、あまりにも迷惑な客だ。しかし、これがやたらと美味い。しかし、自尊心が強い僕は、このどんぶりをあまり他人に見られたくない。かつて、吉野家で牛丼の牛が見えなくなるくらい紅ショウガを乗せ、真っ赤かのどんぶりを喰らう奴を見て「バカか」と思ったことがあったからだ。
だから僕は気配を消して、カウンターでひっそりと青ネギ白ごまうどんをすすった。
すると、隣に「どん!」とうどんを置いた奴が来た。ふっと、そのうどんを、僕は横目で見て、たまげた。
そのうどんは僕と同じかけうどん小(100円)に「天かす」が富士山のように、どんぶりをさかさまにした量で綺麗な逆三角形を描いていたのだ。「すげえ〜」。見た瞬間、そう思った。
いったいどんな野郎が喰うんだ、と僕はゆるりと顔を上げ、「天かす富士」の隣人を見た。隣人は70過ぎくらいの白髪紳士で推理小説を抱えていた。僕は思わず「やりますなあ・・・」とつぶやいた。白髪天かす紳士は「フフ」とだけ不敵に笑った。そして、今度はおもむろに、カウンターにある赤トウガラシのフタを全開にして、どぼどぼっと赤とうがらしを天かす富士に振り掛けたのだ。僕は思わず「北斎の赤富士・・・ですか」とつぶやいた。すると白髪赤富士紳士はやはり「フフ」とだけ鼻で笑った。白髪赤富士紳士はうどんの他に犬のうんこのようなから揚げ1個(50円)をサイドにつけ、合計150円。ノーネクターのスーツ姿に裸足で草履を履いていた。世の中には大きな男がいるもんだ。さぞ名のある文士に違いない。
僕は、バスで笹塚に向かった。バス亭には山下清画伯みたいにおにぎりを食べている女の子がいた。
(まだ、つづくよ)