少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

2330 1930年のスーザン

映像はクリアでしたが、モノクロでした。
1930年代のアメリカでの出来事。
スーザン・テイラー(ラストネームはうろ覚え)という40代の女性。ツバの広い大きな帽子をかぶっている。自称、超能力者だという。
彼女のパフォーマンスを見るために、500〜600人の観衆が集まった。みんな身なりのきちんとした紳士、淑女ばかり。


舞台の袖裏というか、会場の一番後ろ、観客との境目のない場所でスーザンが、開催スタッフと何やら、話をしている。パフォーマンスの予行演習みたいだ。
この日は千切れたお札を元に戻すという演目。スーザンは、スタッフに、それを見せようとしていた。
「まずは、あなたが、このお札を半分に破いてちょうだい。あ、刃物を使っちゃダメなの。ぜんぶ、手で破いてちょうだい。その方が、オリジナリティーが出るでしょ。真ん中の折り目から、こうやって一枚ずつ破るのよ」
スーザンは、そう言うと、びりびりとお札を破りはじめた。
不思議なのは、そのお札が、伊藤博文さんの旧1000円札だった。


10枚のお札が半分に破られ、スーザンはそれをシャッフルした。
そして新たに、一枚、破れていない伊藤博文さんを取り出した。
「いい、よく見ていて、手品師はね、こうするのよ・・・。でも私は違うの。手品師じゃないわ。その違いを見て欲しいの」
スーザンはそう言うと、半分に千切れた千円札をそろえ、その上から、破れていない千円札で包んだ。


スタッフの誰もが、千切れた千円札が元通りになっていることを想像した。
しかし、スーザンのパフォーマンスは失敗に終わり、ただの一枚も、元通りになっていなかった。


どよめいた。スタッフだけでなく、数人の観客も、その光景を目撃していたからだ。床には半分に千切られた千円札が散乱していた。
観客たちは口ぐちに「インチキだ」「まやかしだ」「酷い」「ただの詐欺師じゃないか」。そんな罵声がスーザンと主催者に浴びせられた。
しかし、中には、スーザンを信仰するご婦人もわずかだがいた。いずれも貴婦人だった。
「どうされたのスーザン。十枚すべてでなくてもいいのよ。一枚でも二枚でもいいわ。どうか、いつものあなたのチカラを見せてちょうだい、スーザン、あなたなら出来るはずよ」


スーザンは首を何度も横に振った。泣きながら「できないわ」「できないのよ」を繰り返した。
スーザンの信仰者の貴婦人たちも、一人去り、二人去り・・・そして、会場は誰も居なくなり、途方に暮れたスタッフと無言の掃除夫だけだった。いつの間にか、スーザンも姿を消していた。


何故そこに、生卵があったのか、誰も知るよしもない。しかし、会場に誰もいなくなった後、スーザンがひとり、放心状態で舞台に立っていたことを、何人かが目撃していた。
そして、どういうわけだか、舞台上の講演台の上に置いてあった大量の生卵を黒人の女性スタッフが、誤って、台から床に落としてしまった。
どういうわけだか、生卵は、すべて、プラスチック製のトレイの中ですべて割れ、不思議なことに、殻がなかった。
その状況を見た黒人の男性の掃除夫が、モップをかけながら「明日のモーニングは、象に喰わせくらいの大量のスクランブルエッグだな」と軽口をたたいたが、誰も反応しなかった。それだけ、パフォーマンス失敗によるスタッフのショックが大きかった。


割れた生卵の異変に、最初に気が付いたのは私でした。
すき焼きの時の生卵ではなく、黄身の部分がすでに、半熟のゆで卵のように、球状になって立っていて、それでも血管が透けて見えたり、まだナマの状態のような感じ。しかも、どろっとした白身が、どんどんと黄身に吸収されていくイメージがある。「おい、この卵、なんだか変だぞ」と私が叫ぶと、残っていたスタッグが一人、二人と近づいてきた。


次の映像では、すでに孵化したヒヨコがトレイの中で、ピヨピヨと産声(?)を上げていた。白黄色と黒色。画像はモノクロからセピアカラーになっていた。私がヒヨコの数を数え出したが、50匹を数えたところでやめた。すでに確実に半数はあったし、残りはそれ以上でしたから、おそらく120〜130匹。
私は、直感した。そして思わず叫んだ。
「だれか、破れた千円札を確認して!」
年配の女性スタッフが、床にちらばった半分の千円札をかき集めた。
そして、一枚、二枚、三枚、四枚・・・。四枚の破れていない千円札を確認した。一枚は、最初から無傷の千円札として、では、残りの三枚は・・・?
「やっぱり・・・そうだ。
おい、スーザンは?」
もうすでにスーザンの姿が、そこにないことは私も知っていた。
「誰かスーザンを探して! スーザンを連れてきて!」私はだれかれとなく、そう叫んだ。


翌日の新聞。一部を除いて九割が、スーザンと主催者を詐欺扱いした。その後の、ヒヨコの件も、千円札三枚の件も、捏造だと断定した。しかし、一部の新聞だけは、スーザンの奇跡を報じ、スーザンに帰ってきて欲しいとメッセージを発信した。
しかし、それ以降、今日に至るまで、スーザンを再び見た者は誰もいない。


・・・・・。
どうして、そんな夢を見たんだろう・・・か?
どうして、こんなに鮮明に覚えているのだろう・・・か?
目覚めた瞬間は、ラストネームも鮮明に記憶していたけど、顔とか洗ってるうちに忘れてしまいました。どうして?