少数派日記

社会派エロブログ、少数派日記です。

“安藤総理の少数派日記”

557 上海綺譚4

正気を取り戻した僕は再び歩いた、くそ寒い上海の貧民と金持ちの入り混じった街を。
路上でサボテンを売っているオヤジの回りを3人のオッサンが取り囲んでいた。鳥を放し飼いにしている。僕は鳥のことなど知らない。どうしても気になってしかたなかったので、きょう(2/12)も行って「何と言う名の鳥か?」と聞いたらオッサンは「八哥」と紙に書いてくれた。
レストラン「G」の寮に戻り、ネットで調べたところ、何のことはない「九官鳥」だった。中国では「八」。これが日本に来たら「九」。これは何か意味があると思いきや、さらに調べたところ、日本に初めてこの鳥を持ち込んだオッサンの名前が「九官」という名前だったという。つまらん。
さて、話を昨日に戻そう。最初は僕を含めて4人の集団だったが、みるみるうちに20人ほどの野次馬になった。みんな、オッサンの九官鳥に注目している。鳥籠の回りをぴょんぴょんと跳ねて散歩しているのだ。で、オッサンが「ハウス」と言うとちゃんと籠に戻る。お利口さんだ。
すると、今度はおっさんが、バケツの水を洗面器に注いだ。それを見ていた一羽が洗面器のふちに停まり、顔を洗い出した。何度も洗っては、洗面器の回りをぴょんぴょんと回り、今度はドボンと体ごと水風呂に入り、体を洗いだした。最初はちょっとずつ、出ては入り、入っては出てを繰り返し、だんだんと羽をバタつかせ、大胆に体を洗い出し、全身がずぶ濡れになったころには、洗面器の水は半分以上外にこぼれていた。
たった今、公衆浴室でシャワーを浴びたばかりの僕は、この名も知らぬ鳥に得も知れぬ親近感を覚えた。
すると、順番待ちをしていた鳥が、オッサンに目で訴えていた。次は僕の番だと。
オッサンはまた同じようにバケツから水を汲み、洗面器の水風呂を満タンにした。順番待ちの子も同じように、顔を洗い、そして水風呂に浸かった。20人のヒマ人は飽きることなく、誰ひとり立ち去ることなく、友達でも彼女でもない鳥の入浴を眺めていた。
その時、実は僕は気づいていた。そのバケツの中に生のブタ肉が入っていたことを・・・。
20人のギャラリーがひとり去り、ふたり去り・・・やがて、鳥たちも自分の籠に帰り、最後に最もヒマなギャラリーがひとり残った。そいつが僕だ。僕はオッサンに聞いた「その肉は何の意味があるのか?」。
オッサンは僕に言った「あいつらの好物だからよ・・・」。
「好物・・・か?」
「まあ、見てな・・・」オッサンはそう言うと生のブタ肉をバケツから取り出し、ナイフで小さく刻むと、籠の中の子たちに均等に与えた。
九官鳥にブタ肉かあ・・・。僕はオッサンに「理解した」と告げ、「再会」と言って再び歩きはじめた。そういえば、あの鳥たちは売り物なのだろうか、それともオッサンのペットなのだろうか、聞くのを忘れた・・・と思いつつ。(つづく)