571 どうなる「G」?6
「やる気」と「気合い」は数字で測れないからやっかいだ。逆に言えば「売上の多い店」はやる気があって「少ない店」は気合いが足りないということになる。僕は「そういうことですか?」とK会長に疑問をぶつけると、彼はあっさり「そうだよ」と答えた。
釈然としないのだが、成功者が言うのだから説得力がある。きっとそういうことなのだろう。まだまだ上海「G」はやる気と気合いが足りないのだ。いや、僕にはそうは思えない。
日本の食文化をそのままストレートに、中国風にアレンジせず持ち込んだ日本食レストランはことごとく惨敗している。「G」もどっぷりとその底なし沼にハマっているのだ。郷に入りては郷に従え。中国での全てのビジネスで、最も重要なのは人脈である。それはレストランも医療も同じこと。太い人脈のないビジネスの末路はだいたい見えている。少しでも中国を経験した人なら、わかるだろう。
僕は「K」についての問題点、改善点、将来性を強く語ったが、それでも厳しい現実も伝えた。途中からS店長も加わった。シビアな話し合いは6時間ほどに及び、徒歩で「K」に移動してから夕食をとり酒を飲んだ。
K会長は厳しい人だが、優しい人でもある。デンバーで知り合ってから32年が過ぎた。兄貴のような存在だ。僕は彼にトータルで900万円ほどお金を借りている。彼が、まだ成功する前の話だ。なのに、ふたつ返事で無担保、しかも定期預金を崩してまで貸してくれた。もちろん全額返済したが、今度は、その時の恩を返すつもりで上海に来た。
なんとしても彼の中国1号店を潰したくない。そんな思いだが、いかんせん、時間も実弾もぜんぜん足りない。
僕とS店長、N料理長の3人で500万円を用意した。全部で1000万円必要だ。残りの500万円を出して欲しいとK会長に懇願した。
「僕は夢とかやる気には投資する準備はある。でももう中国には1円も出すつもりはない。答えはNOだ。やりたければ、自分たちの力でやりな。もうこのまま潰してもかまわないよ。引き際も大切だから」
K会長はそう言った。上海「K」はこれで事実上のジ・エンド、ゲームセット・・・に限りなく近づいた。(つづく)