990 飽食・フォアグラ大作戦
小学生だったか中学生のころだったか、親父の書斎から森村誠一の「悪魔の飽食」を取り出して読んだ。「飽食」という単語に出会った最初の時だ。第二次世界大戦で細菌兵器を造るために、日本陸軍が秘密裏に生体実験を行ったという有名な話だ。
今、上海のA店長、N料理長の共同生活マンションで、辞書を引いてみた。
「飽食」=食物に不自由しないこと。生活に何の不足・不自由のないこと。そうです、これなんです。
手相、人相、四柱推命・・・何人かの占い師の先生やら、愛好家の人々に観てもらいましたが、「あんたは大丈夫。食べ物、お金、生活に絶対に不自由しないから・・・」と必ず言われます。お金、生活はともかく、「食べ物」に関しては当たっています。
2/22に中部国際を出発する際、母親が持たせてくれた8個のおにぎりが皮切りでした。「24の瞳」では二泊三日(?だったかな)の修学旅行に出かける際、3食分のむすびを持たされたと記憶していたが、僕はJALで行くのです。弁当も出るのです。今回、45日間の中国滞在でしたが、ただの一度として「ああ腹が減った〜、なんか喰いて〜」と思った瞬間がなかったのです。腹が減る前に次の食べ物がほぼオートマチックに出てくるという、いわゆるフォアグラ大作戦でした。
中国にいると、いつもこんな感じです。
1990年代、中国人の友人で医師のDR・Jと中国を訪れるたびに、四六時中、接待攻撃を受け、多い日には昼食2回、夕食3回も食べなければならないというケースもしばしばありました。当時は北京と上海が中心で、接待ですから、どこもかしこも高級料理店ばかりです。
次の接待場所へ移動の車中、「まさか次もレストランじゃないよな。いくらなんでももう食えないよ」と僕が言うと「何言ってるんだ安藤、中国の接待は会食に決まってるだろう。とにかく喰うことがキミの仕事なんだ。そのためにわざわざキミを連れてきたんじゃないか・・・」とJ。
そんなことが、この国との出会い。20年ほど前の話で、当時はまだ、新陳代謝も活発だったが、今はもう、そういうわけにはいかない。腹部膨満感になると、消化に時間がかかるのだ。だから中国に来るときは、必ずきゃべジンを持参する。
広州での病院の異常な量の病院食の件はすでに書いた。四川のあの娘とかなりの量の夕食を食べる。深夜零時を回ると「わたし、お腹すいたよ」というあの娘。「ええ、もう?」と驚く僕。「わたし、お腹すいた。いけませんか?」というあの娘と夜食。身長165センチ45キロ。この痩せた身体のどこに?と思うほどよく食べる。僕の半分もない体重なのに・・・。
4/5木曜日。長春から上海への移動日。3泊した長春の病院でも、フォアグラ大作戦は写真つきで書いた。
午後13:30発の中国南方航空CZ6155便。11時ジャストにベンツのお迎えが来る。朝8時に朝食が来て、おいしくいただいた。荷造りはあらかじめしておいたので、ブログを更新しようとしたが、またしてもネット環境が不安定。あきらめてシャワーを浴び、DVDでAKB48を見ながら、時間までくつろぐことにした。そして、きょうこそは、機内で昼食が出るまで、少しは空腹になれるだろう、と思いつつ、朝食のゆで卵は残した。
油断した・・・。10:30。看護婦さんが部屋をノックする。「どうぞ」と僕。
「ウソだろ・・・。今、朝食、食べたばっかじゃん・・・」
「どうぞ、11時にお迎えが参りますから、急いでお召し上がりください」
「・・・・」
フォアグラ大作戦は完璧。これが、ダメ押しと言うやつか。
「食べ物を粗末にしてはいけません」とたいがいの人はそう育てられ、僕もそう教えられてきたが、もうそんなことを言っている場合ではない。
少しだけ手をつけ、そして両手を合わせ、料理に感謝とお詫びをして、病室を後にした。
12時には空港に到着し、手続きを終え、椅子に腰かけで出発を待っていたら、隣のおじいさんが僕に「つま楊枝、持ってないか・・・」というので、持っていたのであげた。孫だろう、小さな女の子を連れていたので、その子にはチョコバーをあげた。
先日は病院から外に出て、生まれて初めて訪れた町を散歩していたら、僕をめがけてピンポイントで車が寄ってきて、道を尋ねられた。
どうして俺なんだ。道を歩いているのは、俺以外、全員、中国人なんだぞ。
そして飛行機は何のアナウンスもなしに2時間遅れた。
その日、上海でDR・JとA店長、N料理長、そして長春の病院のO嬢と打ち合わせの予定が・・・。全員に電話を入れ、飛行機を待つ。
「病院で昼食、少しだけど食べておいてよかった・・・」とひとり思う。
上海浦東空港からタクシーを飛ばし、A店長のマンションに荷物を置いたその足でDR・Jが予約してくれたレストランへ。なんとレストランはA店長のマンションの真正面。道を一本渡っただけ。偶然だが、DR・JとA店長のマンションは徒歩圏内。
そしてまた、大量の高級中華料理に囲まれた。