5786 奇跡の波動6
3/21/19
第一章 繋がった命の電波
・奇跡の波動(6)
するとついに、そんなスタッフの熱い思いが通じたのだろうか、背伸びするスタッフリーダーがカウンターの先の通路に今村らしき男性を見つけ駆け寄った。
「今村さんですか? お待ちしておりました」
リーダーは、息を切らす今村に手を貸すとカウンターのアテンダントに向かって両手で大きな丸印のサインを送ったのだ。
23階の医局でのN医師の「とりあえず電話だけでも入れてみましょう」のひと言がなければ私は今村に電話を入れなかったであろう。きっとそうだったに違いない。ドナーを待つナーバスな時期のレシピエントである今村を一喜一憂させ悪戯に神経を刺激する合理性を見出すことが出来なかったからだ。
そして今、携帯電話、パスポート、六本木、成田エクスプレス、最後の一座席・・・と、いくつもの奇跡が重なり、車椅子で航空会社職員に押されながら搭乗ゲートに向かう今村から電話が入った。
「安藤さん、間に合いました。今から乗りますのでよろしくお願いいたします」と。
実に不思議でならないのは、翌日から、またこのdocomoは23階の部屋からまったく繋がらなくなった。
とにかくこれで、レシピエントはほぼ確実に約束の時間内にR病院に到着する。ドナーの臓器も夕刻にはDr・Kの元に届けられる。手術を担当するスタッフもスタンバイできた。あとは、前金で支払わなければならない費用の問題をどうするか。これも絶対必要条件のひとつだ。何が何でもクリアしなければならない。今こうしている間にも、時は刻一刻、一分一秒と時が過ぎて行く。