わしわしとメシを喰らう。ひたすら喰らう。
西新宿の雑居街。家電量販店の呼び込みが叫ぶ街。
普段着の初老の男、ホームレスには見えない。
わしわしとメシを喰らう。ひたすら喰らう。
日に一度の白米を喰らう。
390円のカレーライスを喰らう。110円のおつりを両手でむらう。
中国人の店員からむらう。両手でむらう。
我もメシを喰らう。ひしひしと喰らう。
500円の秋刀魚定食を喰らう。原価が５円と知っていてもひしひしと喰らう。
ホームレスがおかわりのライスを喰らう。山盛りライスを喰らう。
生卵を２つ割り、醤油を混ぜて、メシにかけた。
我もおかわりする。鷲掴みの味付け海苔でメシを喰らった。
ホームレスはまたおかわりする。具のない味噌汁もおかわりする。
我も続く。
「血と骨」では二反の着物と２個の生卵を交換した。
ホームレスと我の前には二反の着物より重い生卵が山盛りである。
ホームレスはまた生卵を喰らう。醤油を混ぜて喰らう。
我に生卵を喰らう趣味はない。ひたすら味付け海苔を喰らう。
50過ぎと60過ぎの日本人。店員の若い中国人が我らを見る。
ホームレスは両手を合わせ、空いた皿に頭を垂れる。
我は麦茶を飲む。生ぬるい麦茶を飲む。
ホームレスは歌舞伎町のゴミを漁る。高尾山のカラスと競う。
我は家に帰る。
まだ卒業できない「さくら水産」のランチ。
